シンポジウム

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2021年(令和3年)2~3月Web開催

酪農現場のリスク管理を考えるⅡ-「暑熱」を考える-

暑熱対策(施設)とアシドーシス対策について

雪印種苗(株)営業本部トータルサポート室担当部長 松本 啓一 氏

1.はじめに

私は26年間北海道で勤務した後、5年前に千葉に転勤してきました。転勤後最初の2年間は比較的涼しい夏でしたが、2018年は猛暑に見舞わられました。埼玉県・熊谷市で国内最高気温41.1℃を記録し、その翌日に現地に行きました。牛の平均乳量は5kg以上減り、分娩直後の乳牛が熱射病で立てなくなっていました。
今回は現地での経験を踏まえ、主に府県の施設に関する暑熱対策の事例と、アシドーシス対策についてご紹介いたします。

2.暑熱対策(施設関係)

  • トンネル換気

    まさに、牛舎をトンネル状にして換気する方法です。現地では築年数が経っている牛舎で工夫してトンネル換気を行っている牧場もあります。例えば、牛舎途中の風の障害になる構造物を取り除く、ファンの設置台数を増やすため、天井にファンを設置する等です。

  • リレー式換気

    府県で一番多く行われている暑熱対策はリレー式換気です。しかし、以前は通路を乾かすといった目的だったため、通路の上に真下を向けて設置されているファンが多いです。最近はそれを移設する、新たに増設し適切なリレー式換気にする牧場が増えています。

  • ソーカーシステム

    人間の熱中症対策で勧められているのが、濡れタオルを首に巻き、小型扇風機を当てて気化熱で首を冷やすことです。それと同じような原理のシステムがソーカーシステムです。これはコントーラーで温度センサーにより水の出る間隔を制御し、専用ノズルで牛の首に水を噴きかけます。かかった水はトンネル換気やリレー式換気の風によって乾かされ、その時発生した気化熱により牛の体温を下げます。

3.アシドーシス対策

ルーメンアシドーシスとは、第一胃で生成された発酵酸がルーメンからの吸収量と、唾液などによる緩衝量を超えpHが下がった状態になることです。pHが5.5を切ると潜在性アシドーシスであると言えます。
暑熱時はアシドーシスになり易く、その原因は、①よだれを出すことにより唾液が失われる、②尿中への重炭酸塩の流出、③反芻回数が減ることによります。
暑熱時期にアシドーシスを防ぐため、環境対策に加え、高いデンプン濃度の飼料給与を避ける、分離給与では一回に給与する濃厚飼料の給与量を多くしすぎない、分娩前後、濃厚飼料給与量を徐々に増やしていく、重曹の給与、選び食い、固め食いを無くすことが挙げられます。
暑熱ストレスを受けた時は、リーキー・ガット(漏れやすい腸)という状態になります。これは、腸の結合部位が損傷し細胞間に隙間がある状態になり、細菌、ウイルス、毒素が侵入しやすくなります。その状態になるとアシドーシスで発生した際の毒素も吸収しやすくなり、食欲の低下、乳生産の低下、乳房炎の発生等の原因になります。

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