シンポジウム

一覧へ戻る前のページへ戻る

2017年(平成29年)2月2日

酪農現場の"カイゼン"を考える-酪農現場で発生するロスとその対策-

乳牛の共済事故とその対策

北海道農業共済組合連合会家畜部長 廣田 和久 氏

1.乳牛生産の流れと事故

北海道では家畜共済に加入している乳用成牛(生後6か月齢以上)70万頭の1/4に相当する年間18万頭(譲渡14万頭と死廃4万頭)が牛群を去り、18万頭(後継牛の自家生産14万頭と外部からの乳牛導入4万頭)が補充され、乳牛飼養規模を維持している。これら乳用成牛は年間39万頭の子牛を娩出しているが、うち5万頭(死産のみで3万頭)が死廃事故により失われている。北海道酪農の生産性向上には、死廃事故(年間9万頭;子牛5万頭と成牛4万頭)の低減により後継牛を確保することが重要である。

2.共済事故

  • 乳用子牛等(胎齢240日齢以上、生後6か月齢未満)

    乳用種母牛から出生した子牛39万頭のうち、3万頭は死産、1万頭は生後1か月以内の腸炎あるいは肺炎等による死廃事故により牛群から去っている。出生子牛の10%の4万頭が生後1か月以内に失われている。

  • 乳用成牛(生後6か月齢以上)

    乳用成牛70万頭のうち年間4万頭が死廃事故によって牛群から除外されている。死廃事故の39%は分娩後30日以内に発生しており、分娩時(初産;21~30か月齢、2産;31~40か月齢)に集中発生している。初産時の死廃事故は、2産の事故に比べて分娩直後(分娩当日~3日)の事故の割合が多く(初産14% vs. 2産10%)、分娩に起因する事故が多いことが示唆される。 乳用成牛の多発死廃病名は心不全、乳房炎(大半が大腸菌性乳房炎)、股関節脱臼、乳熱、関節炎であり、これら5病名が全体の半分を占める。

3.事故対策

  • 死産と母牛の分娩時事故

    死産の主因は難産であり、特に初産牛に多いことから、防止対策として分娩を安全に終えるための育成期間における飼養技術が求められる。また、体格が小さい遺伝形質を持つ精液(黒毛和種精液、性選別精液)の利用が対策として有効と考えられる。

  • 出生直後の子牛事故

    生後1か月以内の乳用子牛における多発死廃病名は新生子死、腸炎、肺炎であり、これら事故は生後1週以内に集中している。新生子死の大半は仮死状態で生まれた子牛であると考えられ、難産や不適切な分娩介助に起因することが示唆される。腸炎、肺炎の大半は初乳摂取不足が原因と考えられる。これらの事故対策として、黒毛和種精液や性選別精液の利用による難産の回避、適正な分娩介助による新生子死の抑制、良質で十分な初乳給与による腸炎と肺炎の制御が有効と考えられる。

  • 大腸菌性乳房炎

    大腸菌性乳房炎は大腸菌による乳腺感染症であるが、有効な予防法は確立されていない。ただし負のエネルギーバランスによる免疫抑制や代謝障害が致死リスクを高めることが明らかになっており糖類製剤応用を含む飼養管理指導が有効と考えられる。

  • 乳熱を含む周産期疾患

    乳熱は飼養設計の改善により制御可能である。また他の周産期疾患(ケトン症、第四胃変位等)については負のエネルギーバランスの解消によって発症リスクを低減できる。よって糖類製剤応用を含む飼養管理指導が有効と考えられる。

  • 股関節脱臼、関節炎

    分娩房の設置、牛床構造(牛床マット等)の改善による滑走等の事故防止が有効と考えられる。

  • 心不全

    心不全は特定の原因が把握できないまま死亡している状態を指すもので、死廃事故で最も多い病名である。心不全の原因究明と事故対策構築が今後の課題である。

一覧へ戻る前のページへ戻る