シンポジウム

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2016年(平成28年)1月29日

創立40周年記念シンポジウム「日本酪農の可能性 -人・牛・飼料-」

草地酪農を目指すTACSしべちゃの取り組み

(株)TACSしべちゃ場長 龍前 直紀 氏

1.はじめに

平成25年11月にTACSしべちゃが設立され、平成27年4月から生乳生産を開始し10ヵ月が過ぎようとしています。

当社は、標茶町農協と雪印種苗(株)、標茶町が出資して設立した農業生産法人です。標茶町の10年先の予想から離農による生産乳量の減少や遊休農地の増加が浮き彫りになるとともに、環太平洋連携協定(TPP)交渉も見据えた中で構想が作られ検討が進み設立に至りました。検討を進めて行く中で、北海道道東地域の特徴である草地を生かした牧草飼料主体の草地型酪農を基盤に低コスト酪農を目指す方向となりました。また、深刻な後継者不足の対策として、担い手確保も重要なため、新規就農希望者を受け入れ、研修の場としての役割も備えています。

生乳生産を開始し、まだ1年にも満たない状況ですが、初年度の取組み内容について紹介させて頂きます。

2.飼養管理関係の取組み

平成27年4月3日より搾乳開始。この日は管内の離農セールが行われた日で、これを機に111頭の搾乳牛を導入し、夕方から搾乳を開始しました。導入時は、牛のストレスが高いことから、負担を軽減する対策を検討していました。例えば、搾乳方法は、事前に職員全員で優良酪農家へ研修に行き、統一化を図っていました。牛の取扱いは蹴らない、叩かないなど。また、給与飼料(TMR)は搾乳牛一群管理となっているため、低濃度(乳量28㎏)に設定し、コンディションの均一化を図るとともに、最初から乳量は求めずに乳質を重視しました。そのために全頭の体細胞検査と細菌検査を実施し、高い値が出た牛は再度分房別に検査を実施しスクリーニングを図りました。

繁殖管理は、一群管理を進めて行く上で最も大事なポイントとなります。コンピューターからの行動量の情報は搾乳時に更新されるため確認程度とし、目視による確認を優先しています。

搾乳開始から一ヵ月程度すると、牛群全体の落ち着きや乳量増加、コンディションの均一化が進んできているのを確認できるようになりました。現時点ではコンディションのばらつきも低く、疾病・淘汰率も低く抑える事ができています。管理体系の中には、夜の見回りによる分娩対応も行い分娩事故を防いでいます。昨年12月からは哺育管理がハッチからロボットに移り、育成牛は預託から戻し自家育成が始まりました。

スタートしてまだ10ヵ月余りです。順調のようにも見えますが経営面、管理面において、今年の2年目がポイントになると捉えています。目標年間出荷量を2,400t以上とし、それを達成すべく飼養管理では、基本作業の継続を念頭に置きスッタフ一丸となって取り組んでいます。

3.自給飼料生産の取組み

平成24年から設立の検討が始まった翌年の平成25年より、TACSの草地となる予定の圃場調査を開始しました。調査は、農協や役場、普及センターや雪印種苗から担当者が集まり、毎年実施しています。調査内容は、圃場ごとに植生調査と収量調査および土壌サンプリング(1回)を行っています。植生調査の結果では、雑草主体もしくは雑草優占草地が大半となり、北海道自給飼料改善協議会で道内の植生状況の実態調査をまとめた報告(草地酪農地帯:釧路・宗谷・留萌地域;イネ科牧草35.7%、マメ科牧草10.8%、雑草40.3%、裸地13.2%)にほぼ近い結果となっていました。

また、収量調査結果では、平成25年北海道牧草収量平均3.17t/10aを下回っていました。このような結果を受け、その対策に向けた取組みを平成26年より開始しています。

圃場環境は、牛舎周辺のおよそ50haは平坦で利用しやすい好条件ですが、他の圃場は起伏に富んだ傾斜のきつい所が多いため、土壌および草地改良には時間が掛かります。そこで、条件の悪い所は追播を主体に改善を進める事としました。

平成26年は、収量が期待できるオーチャードグラスと糖含量が高く嗜好性の良いペレニアルライグラスを等量混合(10kg+10kg/ha)し、30haの追播を実施しました。また、この地域に合った品種や収量を確認するためトウモロコシを10ha試作しました。収量は4.2t/10aと低く(標茶平均5.0t/10a)、栽培方法に課題を残しました。また、収穫時(10/6)の生育ステージは、播種時期(5/30)が遅かったこともあり78日の品種で糊熟後期で止まっていました。播種時期は、1週間から10日早くする事が確認できました。

平成27年は、前年同様に30haの追播を実施しました。トウモロコシは給与量から換算し、およそ38haの栽培を実施しました。また、草地更新は20haを実施しました。

TACSしべちゃは、地域への技術情報の発信といった役割も求められています。当初この20haは、表層攪拌法で更新を予定していたのですが、圃場条件が整っていたため、表層攪拌法のほか、完全更新と簡易更新、および隣の既存草地には追播区を設け、4種類の更新方法を比較する事にしました。播種機のデモンストレーションと称し、地域に案内を配り、播種当日(8/20)は、生産者の方々や関係者が90名ほど集まり、TACSの職員や研修生が播種機のオペレーターを務め実演や更新方法の違いについて紹介しました。この取り組みを継続し、更新方法の違いによる生育の違いや越冬前の確認として、播種後2ヵ月目(10/20)に、フィールド研修会を実施し30名ほどの方々に集まっていただきました。この更新圃場は、オーチャードグラス主体のペレニアルライグラスとアルファルファの混播草地です。冬枯れの影響を受けやすい草種であるため、雪腐防止対策として、11月19日に殺菌剤の防除を実施しました。標茶町では初めての試みとなり、無防除区も設け比較できるようにしました。また、播種時期の拡大と夏播種の手直しとしてフロストシーディングを11月23日に試みています。これらを含め早春の状況を期待したいです。

TACSしべちゃは、自給飼料生産体系の中で収穫作業は、標茶町農協の子会社であるサポートセンターのコントラクターに依頼しています。コントラクターの利用は、6月下旬の収穫適期に集中します。そのためTACSでは、利用が少ない6月中旬を収穫適期とするオーチャードグラスを主体にした草種構成の改善を進めています。TACSは適期収穫ができ、コントラクターは機械の稼働時間を増やす効果が期待でき、両者にとって有益な対策と考えています。

4.おわりに

草地型酪農とは、粗飼料の大半を自給飼料で賄うということで具体的な定義はありません。目安として8割以上であればという程度です。しかし、TACSの粗飼料自給率は、トウモロコシを含めて45%です。草地型酪農地帯に依存しているだけで、まだまだ草地型酪農にはほど遠く、改善は始まったばかりです。昨年進めた課題を今年に生かし、来年に向け今年は新たな課題に挑戦していくといった地道な積み上げが必要な期間と捉えています。低コストの草地型酪農の実証を目指し、関係機関の協力を仰ぎながら取組みを進めていきたいと考えています。

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