シンポジウム

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2016年(平成28年)1月29日

創立40周年記念シンポジウム「日本酪農の可能性 -人・牛・飼料-」

これからの牛群検定情報の活用-今、乳検で出来ること!!

北海道酪農検定検査協会乳牛検定部長 荒井 義久 氏

1.北海道における牛群検定(乳検)の現状

検定組合98組合、実施戸数4,397戸、マスター頭数347,170頭,生乳出荷割合では73.7%の加入割合(平成27年12月末現在)です。

AT検定実施は、97組合、3,799戸、マスター頭数299,233頭,戸数、頭数ともに割合は86%台となっています。

生乳出荷戸数(学校等含む)をもとに平成26年度バルク乳年間出荷戸数、牛群検定加入規模別割合について調査を行い、牛群検定加入率は、71.8%(6,266戸中4,497戸加入)で、特に、 1,000トン以上の大規模農家の検定加入率が82.1%(771戸中633戸加入)、大規模農家が検定に加入し生産性向上に活用している結果でした。

検定員稼働状況については、448名(男性:336名、女性:112名)、平均年齢47歳、検定立会1人当たり平均回数141回/年(男性:129回、女性:177回)です。(平成26年度実績)

検定経費については、組合総額15億3,200万円で、1戸当たりの年額平均33万8,000円(地区最大442千円~地区最小186千円)、同様に農家負担(59%)は、199千円(地区最大256千円~地区最小84千円)、月額16千円となっています。
(平成26年度実績)

2.検定方法の多様化

AT検定法(2回搾乳)については、従来毎月夜と朝の両方を立会(A4検定法)していたものを、簡易化・効率化を求め、毎月交互に夜か朝を立会し、1日分の乳量と乳成分を推定する検定です。平成12~13年に試験運用でスタートを切り、平成14年から本格運用しました。AT検定法が取り進められた背景には、検定成績の精度低下はデメリットとしてありますが、検定による農家の煩わしさ、搾乳中のストレス軽減、組合運営経費(コスト)の削減、検定員確保等のメリットも多くあったことが考えられます。

AT検定法(2回搾乳)スタート以来十数年が経過し、年々取り進む乳牛の改良、経営の大規模化などの飼養環境の変化に伴い泌乳曲線が作成当時と変化している等の理由により、平成27年3月牛群検定全国協議会専門部会で承認され、平成27年6月から推定計算式の変更と併せて乳検組合に通知し取り進め現在に至っています。

その間、自動検定(搾乳ロボット)についても、データが蓄積し計算方法の改善等により36時間検定から24時間検定へ、現在では12時間検定へと検定時間の大幅な短縮を図ってきたところです。現在では、85戸が自動検定(搾乳ロボット)を実施し、新たに搾乳ロボット導入農家が検定加入して頂いており、搾乳ロボット導入農家の半数以上が検定を実施している状況です。

大規模検定農家ではミルキングパーラーによる搾乳が多く、サンプル採取等に時間がかかる、管理パソコンの機種毎にデータ(乳量・給与飼料ほか)が相違し直接取り込めないなどの諸問題があるなか、16機種で検証を行い、現在18組合37農場で大規模酪農検定システムが稼働しています。今後、検定方法における簡易化に向けた運用試験を行い、フィールドでの検証作業を進め、更なる実用化を図ることを計画しています。

3.牛群検定データの変革

牛群検定成績表等については、帳票提供が当たり前でしたが,平成18年より検定日速報のメール配信について、農家、組合、指導支援者(農家同意必要)にPDF形式とCSV形式のデータ提供を無料で開始しました(現在、検定農家宛:56組合、246戸、指導支援者宛: 112団体、1,771戸提供)。その後、牛群検定成績表等をPDF形式で提供するなどしてデータ化を取り進めてきた経過にあります。

平成25年度よりブロードバンド回線(ADSL・光)等の準備が整った組合より、「牛群検定Webシステム」を使用した検定データ送受信への移行を進め、平成26年度には、ユーザーIDおよび利用促進のためのリーフレットを全ての検定組合および検定農家へ配布し、インターネット回線を利用した「牛群検定Webシステム」、スマートフォンから利用可能な「牛群検定Webシステムモバイル版」も併せた利活用促進に向けた取組を行ってきました。

平成27年度は、「数字ばかりでうまく活用できない」、「データ量が多くて消化不良・・・」、「支援者との情報共有がスムーズに出来ない」等の意見が聞かれたこともあり、検定情報の活用に主眼を置き、検定農家、検定組合、並びに外部支援者(農家同意必要)も使用できる「牛群検定WebシステムDL」をリリース致しました。

特に、繁殖管理、グラフで農場の損失チェック、バルク情報も活用出来るようにした「検定情報活用ツール」です。乳検農家の現状が全体との比較等で見ることができ、問題の発見、そして改善対策を取った後の結果を検証できる、まさにPDCAサイクルを回すためのツールです。

同様に、新たな検定データ収集用のタブレット端末については、89組合、380台、導入し稼働している状況です。

平成28年度には、4月以降にスマートフォン等で簡単に使用することが出来る「牛群検定WebシステムDLモバイル版」をリリースする予定で取り進めています。

更なる牛群検定Webシステム等から出力できる情報の拡充および利便性の向上を図り、利用価値を高めることとしています。

4.検定成績から見られる後継牛確保対策

生乳生産を増やすためには1頭当たりの乳量を向上させるか、搾乳牛頭数を増やす必要があります。乳量を向上させるには遺伝的改良や飼養環境の改善が必要になります。

遺伝的改良から見ますと平成25年から始まったゲノミック評価について考えてみたいと思います。

ゲノミック評価は、検定記録と血縁記録だけでなく、新たにDNA上の個体差(多型)の情報としてSNP(一塩基多型)を利用した遺伝評価方法であり、特にヤングサイアーと未経産牛の評価値の信頼度が向上します。このゲノミック評価値を用いることで、より早い段階での選抜が可能となるため、世代間隔の短縮による年当たりの遺伝的改良量が増加するほか、後代検定方法の見直しによるコスト削減が見込めます。日本では、平成25年11月から評価が開始され年4回評価値が公表されています(平成27年11月評価の評価頭数:若雄牛941頭、未経産牛6,911頭)。ゲノミック評価の更なる推進には、信頼度の向上が不可欠であり、リファレンス集団の拡大と継続的な表型値の収集(牛群検定、体型審査)が重要となります。

現在、Alic事業におきまして、平成25年度より未経産牛SNP検査を取り進め、北海道で検定組合が中心となり約15千頭の毛根を採取し実施しているところです。

また、「ゲノミック評価の利活用を図る勉強会」を2月1日釧路地区からスタートし9会場で開催する運びで取り進めています。

次に、搾乳牛頭数を増やすことに着目して考えたいと思います。

一番始めに、子牛の死産率は全道全体平均6.2%ですが、分布で見てみると0%(約1割の農家)から20%を越えるまで幅広く、農家間の差が大きい状況です。

死産率と死産率以外の成績との相関関係を調べたところ、死産率と平均産次、死産率と除籍産次との間には有意な相関(負の相関)が認められ、つまり、死産率が低下すると平均産次や除籍産次が延長するという関係にあります。「死産率0%牛群」と「死産率20%牛群」の成績を調査し、その結果、死産率の高低による平均経産牛頭数、年間乳量に大きな差は認められませんでしたが、「死産率0%牛群」は「死産率20%牛群」よりも平均産次、除籍産次等が高く、分娩間隔は短い傾向にありました。このことは、平均産次や除籍産次の高さは、死産率との負の相関を反映した結果と考えられます。

分娩間隔が長いのは死産(難産)の影響で繁殖機能の回復が遅れたものと推測され、後継牛生産ペースの鈍化、乳量が低下する泌乳末期に長期間搾乳することによる生産量の低下は農家所得の損失へと繋がります。

また、肉牛交配率は平均で14.6%ですが、その分布を見ると0%の牛群が3割近く存在する一方、100%に近い牛群も存在し、肉牛交配率は牛群の特徴を色濃く反映した指標となっています。「肉牛交配率0%牛群」と「肉牛交配率100%牛群」を調査したところ乳量などに差はなく、肉牛交配率と肉牛交配率以外の成績との相関関係を調べたところ、肉牛交配率と平均産次、除籍産次では有意な相関が認められ、肉牛交配率と子牛死産率では負の有意な相関が認められました。

肉牛交配率は経営方針にも左右されるため一概にはいえませんが、これらの相関関係から、死産の発生が少なければ母体へのダメージも少なく供用期間が延長し、更に後継牛が確保できるため余剰となる分をF1生産へ回すことが可能となることへの裏付けであることが推測されました。

肉牛交配率は肉牛価格の高騰の影響もあって上昇傾向にあり、平成17年~26年の牛群検定における精液使用状況から、未経産牛44.9%から45.8%へ、経産牛で3.8%から9.2%へとアップしました。黒毛精液の使用理由は様々であるが、難産回避もその主要な理由の1つです。

しかし、牛群検定データを用いて授精品種(産子の父牛)別に難産発生状況を集計すると、黒毛産子の大型化の影響を受けてか、乳牛の雌産子よりF1の雄産子の難産発生率が高く、授精品種よりも産子性別の影響が強いことが分かり、つまり、難産回避を目的にするのであれば雌雄性判別済み精液の利用も有効な手段となり得ます。乳牛の改良を進めるうえでは、より若い雌牛から後継牛を確保することが効率的です(世代間隔の短縮)。

性選別精液を未経産牛の授精へ活用することで、難産回避、後継牛確保、遺伝的改良と多くのメリットを享受できるものと考え、更にはゲノミック評価値を利用して能力の高い未経産牛を判別し、性選別精液の授精対象とすることが可能です。性選別精液やゲノミック評価といった新しい技術を活用することで、牛群のF1産子数を維持したまま(未経産牛と経産牛の黒毛授精割合を調整する)、生産効率を向上させることが可能になるだろう。

5.まとめ

  • 牛群検定(乳検)は生乳生産の基本となるものです。
  • 昭和49年にスタートして40周年を迎えますが、北海道の酪農家、関係者の努力によってここまで発展してきました。
  • 全国的には加入率は低く、今後国や道が進めようとしている「新酪肉近基本方針」、「家畜改良増殖目標」を達成るためには乳検加入、そしてその情報の活用が今まで以上に必須です。
  • また、酪農家を取り巻くJAや関係団体が一丸となって、まさにクラスターとして畜産クラスター事業、ベストパフォーマンスの発揮を期待するものです。

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