シンポジウム

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2015年(平成27年)1月28日

乳牛飼養管理技術の向上-日本型飼養管理の方向性-

濃厚飼料削減への近道-基礎から飼料給与への応用

酪農学園大学循環農学類ルミノロジー研究室准教授 泉 賢一 氏

我が国の酪農経営は飼料自給率が低く、輸入飼料に大きく依存した生産体系に基づき発展を遂げてきました。近年、アメリカを中心としたトウモロコシ由来のバイオエタノール生産量の増大や中国の大豆輸入量の急増によって国際穀物相場が暴騰しています。このような背景から輸入穀物に頼らずに国産飼料を活用した酪農経営が模索されています。

放牧は飼料自給率向上の近道ですが、立地条件や牛舎構造から放牧を実施できない酪農場は少なくありません。通年舎飼い飼養方式において高飼料自給率を達成するためには、自給粗飼料の活用に加え、食品製造副産物、余剰食品、調理残渣あるいは農場残渣などといった、粗飼料以外の国産飼料を利用することが現実的です。これら副産物系の飼料に含まれる繊維質は高消化性で非粗飼料繊維と呼ばれています。

輸入濃厚飼料を国産飼料に置き換えるということは、濃厚飼料=デンプンを、粗飼料=繊維あるいは副産物=非粗飼料繊維で置き換えるとみることもできます。これは、デンプンから供給していたエネルギーを、それ以外の炭水化物で代替するということであり、その成否にはルーメン内の消化生理が大きく関与してきます。容積をほとんど無視できるデンプンに対して、粗飼料由来の繊維は容積が大きく、非粗飼料繊維であっても容積に占めるエネルギー濃度はデンプンよりも低くなります。したがって、ガサのある粗飼料由来の繊維でエネルギー要求量を満たそうとすればルーメン内の充満がネックとなってしまいます。DMIを下げずにいかに粗飼料を食い込ませるかがカギとなります。一方、非粗飼料繊維源でデンプンに相当するエネルギーを供給しようとすると、別の課題が浮上すると考えられています。非粗飼料繊維源は消化が早く細かい繊維であるので、ルーメンマットの形成不十分の恐れがあるからです。これら低デンプン飼料に取り組む際の炭水化物給与について、今回は力点を置いて解説したいと思います。

一方で、濃厚飼料給与量をゼロにすることは、現代の酪農においては現実的ではありません。それでは、濃厚飼料の給与量をどこまで減らせるのでしょうか。とりわけ、濃厚飼料の中でもタンパク質系の飼料は高価なものが多く、それらの給与量を乳牛への悪影響なく減らすことができれば、経営にとって大きなプラスとなります。飼料の利用効率を高めるためには、飼料給与の側面と牛の個体差の側面があります。そこで、もう一つのトピックスとして飼料の利用効率について考えてみたいと思います。

以上のような観点から、今回お話しする項目は以下のような内容を予定しています。

  • 副産物利用のポイント
    • 非粗飼料繊維の給与とルーメンの健康
  • 粗飼料をより食い込ませるために
    • TMR調製のポイント
    • グラスサイレージ利用時のルーメンマット
  • 粗飼料と濃厚飼料の給与順序
    • 分離給与方式における考え方
  • 飼料の利用効率向上
    • 高価なタンパク質飼料の無駄をなくす
    • MUNについて
    • 乳生産効率について考える

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