「実証圃場」調査研究のまとめ

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2011年(平成23年)10月21日

雪印種苗と雪印メグミルクの事業連携報告

自給飼料『実証圃場』調査研究3ヵ年のまとめ

雪印メグミルク(株)と雪印種苗(株)が連携し、酪農生産現場への貢献とその持続的発展へ資する目的で、平成20年春より、道内23カ所で、自給飼料の生産・利活用に関する需要喚起『実証圃場』調査事業を展開してまいりました。
第2年度にあたる平成21年は、10テーマ(11ヶ所)に絞込み、調査研究を展開してまいりました。
第3年度にあたる平成22年は、8テーマに絞込み、重点的でより緻密な活動を展開してまいりました。

酪農総合研究所は、本調査事業の推進役を担ってまいりました。関係された多くのグループメンバーを代表し、ここでは、課題別にその総括と今後の展望を要約し、ご報告とさせていただきます。

課題別の総括、並びに今後の展望

【I】「作溝型更新機械」を活用した草地(簡易)更新

  1. 【技術要素】

    手軽な草地更新で、草地植生を改善することができる。
  2. 【汎用性】

    通常の簡易更新の他に、(1)傾斜地では、(不耕起のため)土壌流亡を抑えることができ、(2)放牧地では、(植生を活用するため)休牧期間を抑えることができ、(3)泥炭土壌では、(プラウ耕が出来ないなど)基盤を維持する局面に対応でき、(4)雪腐れ、冬枯れ草地では、(植生競合が回避され)速やかに草生を回復させることができ、このように固有のメリットを活用する場面が拡がり、汎用性は極めて高い。

  3. 【作溝型更新機械の比較】

    雪印種苗(株)北海道研究農場が所有する「シードマチック」と「ブレド」について、いろいろな場面で、比較検討が行われている。実証圃場調査事業でも、中川町でそのトライアルが実施されている。農業試験場、農業改良普及センター、町役場などが参画され、詳細なデータとりも行われている。

    No.1「中川町 A牧場」では、(1)上記両機種の比較と、(2)初期放牧の有無について、放牧草地のスタンド形成について検討が行われた。

    初年目~2年目の経過では、「シードマチック区」と「早めの放牧開始区」の組合せが良好と判断された。

    3年目の評価としては、機種の違い、及び早期放牧の有無について、いずれも大きな差が無く、かつペレニアルライグラス「フレンド」の安定した冠部被度が形成されていることが確認された。この試験期間の気象推移が幸いしたのかも知れない。

  4. 【草種の検討】

    放牧地では、ペレニアルライグラス「フレンド」が初期生育に優れ、放牧適性もそなえ、利用性が高い。一方、採草地においても、ペレニアルライグラス「フレンド」の活用をチャレンジするケースが増加している。

    No.2「八雲町 B牧場」では、泥炭土壌における、リードカナリーグラス主体草地の草質を改善する目的で、オーチャードグラス「バッカス」の導入がトライアルされている。随伴草種として、イタリアンライグラス「マンモスB」とハイブリッドライグラス「テトリライトII」の比較も同時進行で進められている。

    2年目の段階では、ハイブリッドライグラス「テトリライト」区がその草生比率、収量性で優る傾向を示している。最終的には、オーチャードグラスの植生定着率が重要となり、その推移を見守ることになる。

    3年目においても、オーチャードグラスの植生は安定し、その品質改善効果は草生割合から顕著であった。ライグラスの種類では、ハイブリッドライグラス「テトリライトII」の草生割合が高く、実用性が高いと判断された。

    写真-1 八雲町におけるオーチャードグラス(H22.5.11)

  5. 【経済性】

    (1)雪印種苗(株)北海道研究農場による試算では、完全更新と比較し、約55%の費用(289,200円/ha)で更新でき、経済的な有利性も高い。(平成20年度酪総研シンポジウム第4講演レジメより)

    (2)草種、品種によって、若干の違いが生じるので、詳細は、雪印種苗(株)営業所へご相談ください。

  6. 【問題点】

    (1)機械の貸しまわしの状況では、播種作業遅れが生じやすく、致命傷となりかねない。

    (2)歩く程度のスピ-ドで、ゆっくりした作業が必要で、スピードをあげると失敗しやすい。

  7. 【今後の展望】

    (1)「完全更新」は、土壌改良に重点がおかれ、土壌改良資材や堆肥を充分に投入(活用)できるメリットがある。ただし、作業料、資材費ともに割高となり、更に、作業日数もかかる。

    (2)この「簡易更新」はまさに、上記の逆となり、【汎用性】でふれたようなシチュエーションでは、有利性が増してくる。

    (3)泥炭地(土壌)の場合、プラウ耕起することによって、軟弱かつ排水不良地を生じさせるリスクが高まってくる。従って、泥炭地では、「作溝型播種機による更新」が、安定感のある工法と言える。

    (4)草地面積が100haを越える農家、経営体が増えており、コントラクタやTMRセンターを含め、草地管理機械の一つに「作溝型更新機械」を所有する時代が到来するものと思われる。

    (5)この場合、適期播種作業が可能となり、本技術要素の最大の問題点をクリアーすることが容易となる。

【II】イタリアンライグラスを活用した、「草地強害植物」(雑草)の抑制

  1. 【技術要素】

    生態学的な雑草の抑制法、環境にやさしい手法といえる
  2. 【導入場面】

    (1)「シバムギ」「リードカナリーグラス」「ギシギシ」等が沢山存在する圃場が多く、その更新に当たっては、事前にそれらの強害雑草を叩いて、清浄な圃場を準備することが必要となる。

    (2)一般的には、除草剤が使用されるが、漁業との関連で、「禁止」または「不使用」とされる地域があり、そのような場面では、この技術要素が力を発揮することとなる。

  3. 【汎用性】

    上記のシチュエーション以外では、(1)もともと除草剤を使いたくないという人、(2)有機牛乳の生産と取り組む経営体(グループ)など、(3)今後は、イタリアンライグラスの魅力をより取り込もうとする人々、等へ、時間をかけて拡がりを見せるものと思われる。

  4. 【抑制メカニズム】

    イタリアンライグラスの優れた初期生育と伸張性を活かし、強害雑草を被圧し、刈り取り後も、イタリアンライグラスの卓越した再生力を活用し、被圧を重ねることで、衰退をはかる。この方法を2ヵ年継続することによって、実害が無い程度に強害雑草を抑制する。

    写真-1 幌延町におけるイタリアンライグラス(マンモスB)によるリードカナリーグラスの抑制草地

  5. 【問題点】

    (1)北海道では、1年~短年利用のイタリアンライグラスは、通常、利用(栽培)されておらず、その草種・品種特性も把握されていない。従って、イタリアンライグラスの特性を把握するところからのスタートとなる。

    (2)II番草での充分な被圧を実現するには、I番草刈り取り後の、窒素肥料の追肥が必要となり、一昨年実施の、天塩町、幌延町では、この対応が欠けていた。窒素成分で40kg/haが基準となる。(農家心理として、この段階での追肥は抵抗があるのかも知れないが、ここでケチると、もとのもくあみとなってしまう。)

    No3.「幌延町 C牧場」は、2年目の取り組みにおいても、I番草収穫後の追肥が実行されなかった。従って、リードカナリーグラスの抑制も部分的なバラつきが認められ、チモシー草地へ戻すに際しても、除草剤利用の是非で悩む結果となった。

    (1)平成22年は、永年草地への転換(造成)ということで、イタリアンライグラスの栽培はなかったが、フォローを行い、その後の状況をヒアリングした。

    (2)リードカナリーグラスが完全に抑制されていないこと、その点について、Cさんから不満とも思える発言があった。本技術は生態学的抑制法であり、その宿命とも言える。

  6. 【経済性】

    (1)イタリアンライグラスの種子代は、牧草の中でも安価なほうで、物財費ベースでは、除草剤処理と大差がない。しかし、2ヵ年という期間をどう評価するのか、今後の課題でもある。

    (2)2年間、イタリアンライグラスをしっかり栽培し、その収穫を上げてゆくことが、抑制効果と経済性の両面で得策と言える。

  7. 【今後の展望】

    (1)この技術要素本来の定着は、当面、除草剤が使えないエリア・生産手法に限定されてくる。

    (2)平場(泥炭地)における、リードカナリーグラスの抑制は、土壌排水の良否にも左右され、なかなか難しい。一方、山場(重粘地、など)における、リードカナリーグラスの抑制は、成功の確率が高いものと判断される。

    (3)今後は、リードカナリーグラス主体草地の【栄養価、嗜好性改善の技術要素】として、イタリアンライグラスの追播が採用される可能性もある。こちらは、リードカナリーグラスを上手に活用するというスタンスであり、これも生態学的な手法と言える。こちらは、リードカナリーグラスを上手に活用するというスタンスであり、これも生態学的な手法と言える。

    (4)反収をあげ、かつ、高栄養というイタリアンライグラスの利点が、今後は、土地条件の制約を受ける、畑酪地帯で活かされる可能性もあり、そのようなニーズがあれば、「実証圃場」として展開・トライアルしたい。

    写真-2 幌延町におけるイタリアンライグラスによるリードカナリーグラスの抑制草地

【III】冬枯れ抵抗性アルファルファ『ケレス』の普及促進

  1. 【技術要素】

    新品種『ケレス』の特性を、良質自給飼料増産場面で発揮させる
  2. 【ケレスの特性】

    (1)越冬性、永続性が優れ、全道で利用可能、(2)冷涼地帯で多発するソバカス病に強い、(3)収量性が優れる、(4)バーティシリウム萎ちょう病抵抗性品種である。

    (2)育成段階から、雪印種苗(株)芽室試験地(十勝)、別海試験地(根室)で、系統の評価・選抜が実施され、その結果、土壌凍結地帯における優れた適応性が付与されている。

  3. 【汎用性】

    今まで、アルファルファの栽培が困難とされてきた、十勝や根室においても、実用的な栽培が可能である。試作協力をいただいている、大樹町K牧場、別海町F牧場では、播種8年目、利用7年目の混播草地が利用されており、その優れた適応性・永続性が実証されている。

  4. 【経過】

    No.4「大樹町 D牧場」では、播種適期を遵守され、3ヵ年にわたる越冬も順調、その後のスタンドも良好で、トップ収量をあげている。

    写真-1 大樹町D牧場(H23.5.19)―利用3年目1番草―

    No.5「中標津町 E牧場」

    (1)簡易更新と全面更新の比較も加味されて、初年目は全面更新区のスタンドが良好であった。

    (2)簡易更新区については、初年目、初冬期に追播(フロストシーディング)などの救済手当がなされた。その結果、利用1年目のII番草では、両区とも同程度のスタンドが確保された。

    (3)平成22年度においては、全面更新区ではギシギシの密度が高く、一方、簡易更新区では、リードカナリーグラスの草生割合が高く、顕著な傾向となった。

  5. 【経済性】

    第2年度より、別海町「ケレス友の会」のメンバー、No.6「別海町 F牧場」が「実証圃場」調査研究に加わった。
    8ヵ年にわたる「ケレス混播草地」が用意されており、それらの自給飼料生産場面における経済性について、ご協力をいただきながら、その有利性を明らかにしたい。

    写真-2 造成6年目 II番草(21.7.23.時点)

  6. 【問題点】

    No.7「岩見沢市 G牧場」

    (1)播種当年、播種期が9月16日と、約1カ月遅れでのスタートとなった。芽だしは良好であったが、越冬態勢を確保するに至らず、春のスタンドは、崩壊状態であった。

    (2)播種割合も、アルファルファ「ケレス」:チモシー「ホライズン」=3:1であり、播種期遅れと、播種割合が、結果的にミスマッチし、鎮圧不足も足を引っ張る結果となった。

    (3)2年目、4月2日に、再度、ブリリオンによる播種が行われ、9月1日、シードマチックによる追播が実施された。

    (4)平成22年春、アルファルファ「ケレス」の順調な越冬状況が確認でき、収量もあがっている。

    (5)牧草地の造成も、最初につまずくと、ずるずるとてこずることがある。G牧場もそのケースであったが、北海道研究農場のご支援をいただき、やっと軌道に乗せることができた。

  7. 【今後の展望】

    (1)この技術要素は、平成21年春より、北海道と雪印メグミルクグループとの包括連携協定の取組みテーマに採用され、北海道における自給飼料生産強化の一環として、官民連携しての、一層の普及・促進が進行することとなった。

    (2)平成22年度、実証圃場調査事業としても、8課題中の4課題を占めており、3年目はここに重点をおいた取り組みが展開されたことになる。

【IV】耐病性F1トウモロコシ『ビビッド』などの普及促進

  1. 【技術要素】

    ススモン病多発エリアでの高カロリー自給飼料の安定確保
  2. 【ビビッドの特性】

    (1)(1)ススモン病抵抗性が極強、(2)耐倒伏性が極強、(3)雌穂は実入りが良く、(4)TDN収量が高い、80日クラスである。

    (2)雪印種苗(株)北海道研究農場では、育種母材・系統段階から、ススモン病の幼苗接種検定を重ねており、中でも『ビビッド』は抜群の抵抗性を示している。

  3. 【経過】

    (1)初年目、大樹町D牧場、T牧場において、連作のため例年ススモン病が激発していたが、『ビビッド』の栽培によって、病気を回避した高品質F1トウモロコシサイレージを調製することができた。

    (2)特に、D牧場は、アルファルファ『ケレス』混播草地の造成(課題No.4)にも取り組み、両者の組み合わせ給与によって、経営の改善をはかることを視野に入れている。

    No.8「新冠町(株)にいかっぷAS」

    (1)総面積40ha強、F1トウモロコシのラッピングサイレージ調製・供給を進めている。

    (2)ススモン病の発生も少なく、ニューデント105日、110日が栽培されているが、パイオニア品種の罹病度が高まり、その差、評価が開きつつある状況にある。

    (3)平成22年度は、全て、ニューデント系品種が採択されるに至った。

  4. 【汎用性】

    (1)F1トウモロコシはTDNの自給力アップには最も適した作物と言え、畑作地帯における耕畜連携にも組み込みやすい作物であり、栽培の更なる拡大が期待されている。

    (2)『ビビッド』のススモン病抵抗性は抜群であるが、ニューデントシリーズのラインナップは、いずれも実用程度の抵抗性は備えており、地域、作付期間に応じた適品種の選択が可能となり、新冠町でも、高い評価が得られている。

  5. 【今後の展望】

    (1)配合飼料の高騰⇒F1トウモロコシ栽培の取組み強化、この図式は定着を辿るものと思われる。

    (2)ニューデント系の優れたススモン病抵抗性が評価され、40ha全量受注に至っている。

    (3)『ビビッド』を中心として、周辺クラス品種をもPRし、全道各地で更なる需要喚起へつながることを期待したい。

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