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酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.17 平成23年度酪総研シンポジウム「牛乳・乳製品の機能性・おいしさを科学する」
総合討議「意見交換(要約)」


【パネラー(講演者)】
雪印メグミルク(株) ミルクサイエンス研究所 主事 堂迫 俊一氏
東北大学大学院農学研究科 教授 齋藤 忠夫氏
日本獣医生命科学大学応用生命科学部 教授 阿久澤 良造氏
社団法人札幌消費者協会 理事 松井 英美子氏

【司会】
雪印メグミルク(株) 酪農総合研究所 部長 佐藤 正邦
雪印メグミルク(株) 酪農総合研究所 部長 宇高 健二

【意見交換の内容】

(司会)
 今回のシンポジウムの内容をまとめると、「乳の科学」、いわゆる第一次機能の栄養的な面、第二次機能の感覚機能の面、第三次機能といわれる機能性という面について網羅された内容であった。
 栄養的な面では、栄養素密度の点からも乳は非常に優れた食品であることは間違いない。特に、子供たちの肥満、中年のメタボ等が昨今の問題となっている中、食品のバランスが非常に重要であることがわかる。
 次に、感覚機能の面では「神秘」、「個人的な感性」等々あるが、消費拡大につなげる場合には、この感覚的な部分を国民や消費者はニーズとして持っていることを認識する必要があることが伺えたと思う。
 最後に、機能性の面としてはさまざまなものが発見、検証されてきたが、残念なことに消費者がまだまだ実態を理解してない現実がある。一方で、私どもも正しく情報を伝えられていないという現実もあり、そういう視点も含めた中で意見交換を進めさせていただきたい。

【事前質問】
・牛乳が肥満を抑えるメカニズムをもう少し詳しく教えてほしい。

 (堂迫)
 その点については全てわかっている訳ではないが、一つはやはりカルシウムの存在であり、カルシウムをたくさん摂取すると脂肪の吸収が抑制され、便に排出される脂肪量が増加するといわれている。
 もう一つは、カルシウムの摂取によって脂肪の燃焼率を上昇させるという実験データがある。その他にもあるかもしれないが、現在のところはその二つの要素が肥満を抑える大きな要因といわれている。

【事前質問】
・加熱の度合により牛乳乳製品のカルシウムとタンパク質の吸収率はどう変化するのか?

(齋藤)
 チーズ製造の場合、強い温度での加熱は厳禁です。教科書的には加熱によってα‐ラクトアルブミンとβ‐ラクトグロブリンがカゼインミセルの表面のκ‐カゼインとSS結合を組み直すことにより結合してしまい、レンネット(キモシン)が作用する際の立体障害となるために凝固遅延が起こるとなっている。したがって、チーズの原料乳の加熱条件は、63℃で30分という低温殺菌が基本である。
 生乳の加熱殺菌には、何通りもの条件があるが、どの加熱条件を選択したとしてもタンパク質については通常頑丈であると思う。カルシウムについては、全体を100%とすると、うち60%がカゼインミセルと結合、30%がリン酸塩やクエン酸塩、10%はフリーの状態であり、常時それらが平衡による状態変化で入れ替わっているが、加熱すると特にリン酸塩が不溶化することによりカルシウムの溶解性が下がり、吸収できる絶対量が減少することは考えられる。
 ただし、牛乳は1ml中に1mgのカルシウムが入っている食品であり、通常の殺菌という加熱条件においては多少カルシウムが不溶化しても吸収性にはあまり影響はないと考える。

【事前質問】
○ヘキサナールの生成メカニズムを教えてほしい?(@)
  ・ポンプの過度なエアー混合や脂肪球が壊れることは影響するのか?(A)
  ・大豆等のリノール酸の多い飼料の影響はあるのか? (B)

(阿久澤)
@については、申し訳ないがわからない。
Aについては、講演の中でも若干ふれたが、脂肪球が壊れることによって皮膜の中から脂肪が漏出し、酸化の原因となる。
Bについては、明治の研究内容を引用して話をさせていただいており、影響ある旨、示されていますが、その詳細については講演資料に記してある出典の内容をご覧いただきたい。

【事前質問】
・感覚機能へのイメージにおいて、食品そのものとは別に、「健康な牛」、「緑の大地」といったイメージが大きいと思われるが、その影響力をどう考えるか?

(松井)
 個人的な考えでは、特に緑の草原で放牧することがよく、そうでないものはよくないとは思っていない。やはり牛の飼い方はその地域に合ったものが自然であり、牛に対するケア等にきちんと向き合っている生産者の牛乳はおいしいと思う。
 一部にはそういうイメージにこだわった消費者もいるが、全てがそうだという訳ではない。

【事前質問】
・サプリメントより牛乳乳製品を摂取した方がカルシウムの吸収がよいことはわかるが、 ミルクの温度の影響により吸収率が変化することはあるか?

(堂迫)
 先ほどの齋藤先生の答えと同じだが、温度そのものがカルシウムの吸収に大きく影響することはないと考える。カルシウムはpHが下がると溶ける、すなわち胃の中に入ると溶ける訳であり、その後腸内で不溶化するが、そこで乳のタンパク質、カゼイン等が入っていくとカルシウムの吸収性が上がるというメカニズムであり、温度は大きく影響しないと考える。

【事前質問】
・牛乳乳製品が虫歯によいということだが、こういった面をもう少しアピールすることはできないか?

(齋藤)
 まず、チーズ製造技術の分野においては日本の大学とアメリカの大学の位置付けが相当違っている。アメリカでは企業よりも立派なチーズをつくる装置が大学にあり、日本の大学ではインターンシップで企業に行くが、アメリカでは企業から大学の研究室へインターンシップし、習得した技術を現場に戻すというレベルにある。
 その一例として、日本の教科書では「ホエータンパク質にはβ‐ラクトグロブリンが一番多く含まれているが、SS結合という一番タンパク質を頑丈にする構造を持っている。そのため、消化過程でも残りやすく、アレルギーの原因となるアレルゲンとなる。したがって、離乳を急いではいけない」などのネガティブなアピールをしている。
 逆にアメリカの大学では、「ホエータンパク質にはバリン、ロイシン、イソロイシンといった分岐鎖アミノ酸(BCAA)が大量に含まれ、非常に燃焼効率が高いために、アスリート等が運動前に摂取することにより持続性が上がる」といったポジティブなアピールをしており、ジェネラルニュートリションセンター(GNC)ではホエータンパク質が大量に売れているという実態がある。実際に、ジェネラルニュートリションセンターはアジア、ヨーロッパ各地にあり、どうやって売るかという仕掛け、つまりアウトプットがしっかりできていることがわかる。
 このように、日本の大学教育の中でもネガティブな面を強調するのではなく、ポジティブな面をアピールしていく必要がある。

【事前質問】
・デントコーンサイレージと牧草サイレージ主体の飼料では牛乳乳製品の「おいしさ」に違いが出るのか?また、放牧とサイレージ給与による違いも出るのか?

(阿久澤)
 私は飼育、個体管理については素人であり正確な返答はできないが、おいしさにはそういった条件による違いがあるといわれている。

【事前質問】
・女性の場合、妊娠した際のカルシウム摂取量は1日当たりどの程度必要か?

(松井)
 手元に資料がなく正確な数字は言えないが、カルシウムについては許容上限量が決まっており、いくら妊婦でも摂りすぎには注意しないといけない。食品分析表には必ず摂取基準量が載っており、それを見てもらえば詳しくわかると思う。

(堂迫)
 カルシウム研究の第一人者であり、ミネラルの摂取基準を決める委員でもある女子栄養大学の上西先生の話によると、妊婦の場合でもそれほどカルシウム摂取量を増やす必要はないということであった。なぜなら妊婦は普通の女性よりカルシウムの吸収率がはるかに高いというのが現在の考え方のようである。
 ただし、厚労省から「本当にその考え方でいいのか?」という疑問もあり、2015年度の摂取基準に向けては検討中とのことであった。

【質問者;酪農家】
・ 現状、牛本来の免疫力を高める取組み(アメリカでも使われている免疫力を高める物質を飼料に混入)をここ1年実施してきたが、3ヶ月目くらいからさまざまな面で牛の状態が改善された。また、全乳哺育により仔牛の抵抗力も上がり、私自身も風邪を引かなくなった。
こういった点を踏まえ、免疫移行による牛乳乳製品の効果について臨床データをとってもらえれば消費拡大につながるのではないか?

(齋藤)
 生産現場では仔牛や仔豚の下痢症を如何に防ぐかが究極の課題かもしれない。現在、農水省も抗生物質3割減という方向性で進んでいるが、一番理想的なのは飼料の中に免疫を刺激する成分を入れ、刺激が落ちたとしても炎症性を抑えるような乳酸菌を入れるといった方向で飼料の改良が進んでいくことであり、それが一つの答えであると思う。
 ちなみに日本では、常に乳量増加、脂肪率向上という方向性できており、乳量ではアメリカの平均である1頭当たり乳量8,500kgをはるかに超えるスーパーカウが日本にもいるが、それ故足腰がもたない。かつ多くは舎飼で3産しないうちに早期淘汰されているが、その原因は体を大きくし過ぎたことにあると考えられる。体細胞の問題についても今の30万個/mlという基準が妥当なのか?業界が決めることではあるが、乳量としも5〜6産が一番多く、現在の2.7産で早期淘汰されるという数字は日本のような生物資源の少ない国では非常に大きな問題である。
 脂肪率についても、チーズを製造する場合には脂肪が多すぎて調整が必要である。当然ながら脂肪の量が増えるとタンパクが減り、旨味を出すタンパク質量が低下する。チーズ専用のジャージー、エアシャー、ブラウンスイスも日本にはいるが、ジャージーは日本中で8,000頭しかいない。カリフォルニア州などではチーズ工場の隣で3,000〜5,000頭規模でジャージーを飼っており、その牛乳は全て契約会社が買ってくれている。
 日本には日本流のやり方があるとは思うが、それほど牛を大きくする必要はないし、それほど脂肪率が高い必要はないと考える。また、日本では、「飼いやすい」「乳量が多い」等の理由でホルスタインを飼っているが、西南暖地でホルスタインを飼うことには無理があり、そういった視点からも日本の畜産についてはいろいろ考える必要があると思う。

(阿久澤)
 私見ではあるが、母牛の免疫力向上は仔牛の免疫力向上にはつながるが、人の免疫力向上には量的な問題をも含め直接的につながらないと考える。ただし、母牛が健康な個体を維持、増進することは、先ほどの質問の回答と同様、そのメカニズムについては答えられない(不明)ですが、ヘキサナールの減少など、間接的においしさの機能につながるものがあるのではないでしょうか。

(堂迫)
 牛乳はもともと仔牛に飲ませるためのものであり、免疫グロブリン、ラクトフェリンといった免疫力を高める成分が入っている。しかし、人間が摂取する際には殺菌によりそれらの成分は活性を失ってしまう。
 ただし最近では、カゼインとホエータンパク質が体内で消化される時に生成されるペプチドの中に免疫力を高めるものがあることがわかってきており、牛乳乳製品の摂取により風邪を引きにくくなる、病気になりにくくなるという部分で貢献していると考えられている。

【質問者;酪農家】
@黒澤酉蔵の提唱した循環農法に興味を持ち、15年間化学肥料を使用していないが、土壌、粗飼料、サイレージの酸組成、炭水化物の分画の分析結果に手応えを感じている。化学肥料の必要がない農業は唯一酪農であると説いた人物が雪印乳業の創設者の一人である黒澤酉蔵であることにもう一度目を向けていただきたい。
A菌体外多糖を生産する乳酸菌などを使用したヨーグルトについて調べると、「このヨーグルトと牛乳の免疫システムへの働きを比較すると、両群とも摂取前よりT細胞の増殖能力が上がったが、ヨーグルト群の方が上がり方が高かった。また、NK細胞の活性化では、両群とも正常値に近づく傾向を示したが、是正効果はヨーグルト群の方が高かった」という報告があった。ただ、これは今までも言われていたヨーグルトの効果であり当たり前のことだと思うが、現実としてこのヨーグルトが飛ぶように売れている。このことから例えば共役リノール酸等の機能性をさらに研究し、牛乳の機能を理詰めで表現してもらえれば牛乳乳製品の消費拡大につながるのではないか?

(堂迫)
 言われるとおりであり、私としても今後はそういった部分にさらに力を入れて研究を進めていきたい。

(阿久澤)
 今話されたヨーグルトが売れているという話だが、それは私の講演での商品選択における健康維持増進訴求タイプの代表的な商品であると思います。このヨーグルトは思考食品(造語)、すなわち、商品情報を得て、思い考えをめぐらして選択する食品としてとらえられるからです。先ほど、北海道における牛乳消費量低下の要因についての質問がありましたが、そのことと関連づけて考えると、健康維持増進の代表的な食品である牛乳でさえ、絶えずその情報を発信し続けないと消費は低下するということに結びつくのではないか。すなわち、本能ではおいしさを求めて商品を選択することを再確認できたように感じています。今までの自分はおいしければ商品選択の継続につながるという考えが強かったが、その話(質問)を聞き、飲ませたい、食べさせたい食品があったら、思い考えて食品を選択させる要素を含めることも重要だと思った。

(齋藤)
 ヨーロッパではラベルに「BIO」と表示している有機農法による乳製品が相当拡大している。アメリカでもそういった食品を専門に出すレストランがあり、日本でもそういった仕掛けが必要であろう。
 また指摘のあった菌体外多糖を生産する乳酸菌などを使用したヨーグルトの実験については、そうできなかった事情も聞いているが、通常のヨーグルトとこのヨーグルトを比較した方がよいと思われた。結局、このヨーグルトについてはマスコミ効果が大きいと思われるが、共同研究している立場から言えば、このヨーグルトの乳酸菌は相当特殊な多糖体を菌体の外につくっており、それが免疫機能を刺激するというメカニズムが起きているという科学的な事実がある。

【質問者;酪農家】
・ 観光客がいなかった町で、地元の乳製品や産物で町民の健康管理ができていることを自治体や議員、農協役員等を巻き込んでアピールした結果、観光客が増えたという話がある。
 また、地元の小学校で牛乳を全然飲めなかった生徒がいたが、牧場の搾りたての牛乳を沸かして飲ませるとおいしいと言い、皆牛乳が飲めるようになった。結局、牛乳を飲まず嫌いで成人した人もいるであろうし、そういう人を少なくしていかなければならない。
 私も環境問題等ある中、牛をしっかり管理し、おいしい風味のある牛乳をつくろうと努力している。先生方にも健康的な牛の牛乳にはこういう長所があるという点をしっかりアピールしてほしい。

(堂迫)
 全くそのとおりである。栄養経済学という分野では、牛乳乳製品を皆がもっと摂ることによって、将来的の高齢化社会における医療費の増大を抑えることができ、社会が健全化するという研究がある。アメリカの例では国家予算のかなりの割合でコスト削減が可能であるという試算もあり、そういった視点からも行政を含めてもっと牛乳乳製品を摂取するよう働きかけるべきだと考える。

【質問者;酪農家】
・ 自分の子供もそうであるが、小さい頃から牛乳を飲んでいれば成長しても飲んでくれると考え、現在地域の保育園等で消費拡大にも取り組んでいる。その際、牛乳の機能性を伝えたいが、アトピー等の問題も考えないといけない。そういった点を踏まえて乳幼児への牛乳乳製品の与え方を教えてほしい。

(堂迫)
 アトピーは医学的な話であり、やはり医師の指導に従ってもらうのがよい。ただ、研究としては、ヨーグルト等を少しずつ与えることによってアトピーが改善されたという論文はある。
 また、小さい頃からおいしい食品を与えると、大きくなってもその味を覚えておいしいと感じるようである。保育園の子供たちにおいしい牛乳を与えてあげるのは非常によいことだと思う。

(齋藤)
 日本の場合、学校給食は教育の一環であり、小学校の先生もその場にいないといけないし、全部食べないといけないという考え方であったが、それを強く推し進めてきた結果、そばアレルギーによる死亡事故(吐しゃ物による窒息)が起きてしまった。
 それ以降、無理強いはしないという方針できているが、実は教育現場では好き嫌いを見分けることができない。子供が食べたくないと言う場合、本能的にアレルギーを起こしやすい食品を避けているという考え方もあり、仙台市では保護者が医師の診断書を添えて申し出た場合は、それを食べなくてもよいということになっている。アレルギーの問題については特に慎重になった方がよい。

以 上

当日ディスカッションされなかった事前質問に対する回答

○堂迫先生に対する質問

1.ラクトフェリンの放射性物質低減効果が注目されているが、乳糖の新たな機能性として、どのようにお考えですか。また、今後研究が進んでいくと思われますが、乳糖の研究の方向性は?

(回答)
ラクトフェリンには生体の酸化を抑制したり、免疫力を高めたりする働きがあります。このため、ガンなどに対してもガン細胞を抑えることが報告されています。
シンポジウムでもお話したように、生物が乳糖を合成できるようになるには長い年月と複雑なプロセスを経る必要がありました。そこまで苦労して乳糖を必要とした決定的な理由は何かを解明する必要があると考えます。その一方で、シンポジウムではお話しませんでしたが、乳糖を含まない(アザラシ、オットセイなど)、あるいは非常に少量しか含んでいない(白熊など)動物がいるかと思えば、ヒトや馬のように7%も乳糖を含む動物もいます。この違いは何故なのか、食事内容や生活環境などのせいなのか、謎を残しています。こうした謎を解明できた時、初めて乳糖の本当の機能・意義が分かるのではないかと考えています。

2.「乳糖の生成にα-ラクトアルブミンが必要である」とのことですが、どのような役割を果たすのでしょうか?

(回答)
乳糖合成のプロセスにおいてガラクトースにグルコースが結合する必要があり、その反応を触媒するのがガラクトシルトランスフェラーゼです。しかし、ガラクトシルトランスフェラーゼという酵素は単独ではグルコースに近づくことができません。α―ラクトアルブミンはガラクトシルトランスフェラーゼに結合し、ガラクトシルトランスフェラーゼの構造を修飾してグルコースへの親和性を高めます。それ故に、ガラクトシルトランスフェラーゼはガラクトースにグルコースを接近させ、結合反応を進めることができるようになります。
かなり、複雑で難しい話ですので、シンポジウムではα―ラクトアルブミンはガラクトシルトランスフェラーゼのアシスト役ですと説明いたしました。

3.健康を保つためには1日にどれほどの牛乳を摂取すればよいでしょうか?

(回答)
一概には言えませんが、世界中で勧められている運動が3−A−Dayです。1日に牛乳3本分相当(牛乳、ヨーグルト、チーズの組み合わせでもよい)を摂取すると、骨健康やメタボ予防に有効と言われています。また、そのような結果が多くの論文で発表されています。

4.男性と女性でCaの必要量が異なるのはなぜ?

(回答)
Caの「推定必要量」は「体内へのCa蓄積量(骨や歯など)」―「尿へのCa排出量」―「汗や抜け毛などで失うCa量」がゼロになる摂取量に吸収率を加味して算出します。男性と女性では平均的な体格が異なりますので、推定必要量も異なります。ただ、あくまでも平均値ですので、女性でも体格のよい方では男性並み、あるいはそれ以上必要となる場合もあります。

5.乳牛のIGF-1(インスリン様成長因子)について問題にする学者がいますが、人間は人以外のミルクを摂取することは体に悪い病気(ガンの発生)原因になるのでしょうか?

(回答)
IGF-1がガンの原因になると主張している学者はいらっしゃいます。それは、IGF-1が試験管内での実験で、細胞増殖作用があるためです。では、試験管内と同様にIGF-1が細胞増殖作用を示すためには、@IGF-1量が十分で、A十分量が吸収され体内に入るのか、B実際の市販牛乳中のIGF-1量はどの程度なのかといった点を明らかにする必要があります。残念ながら、これらに関するデータは不十分です。その理由は、市販牛乳中では正確に測れない程度しか入っていません。海外の論文で、スポーツ選手にIGF-1強化牛乳を飲ませたところ、血液中のIGF-1量は摂取前後で変わらなかったと報告されています。つまり、外から食品で摂取する量より体内で合成されるIGF-1が圧倒的に多いのです。
ヒトがヒト以外のミルクを飲むと体によくないという主張には、ミルクアレルギーの問題以外には全く科学的根拠はありません。色々な食材をバランスよく食べることが基本です。

6.共役リノール酸の効果の研究はどこまで解明されているのでしょうか。悪く言われる場合のある脂肪分(脂肪酸)に共役リノール酸が含まれているのであれば、その効果をもっと前面に出して、一部にある誤解を解消しなければならないのでは?

(回答)
乳脂肪に関して悪く言われる脂肪は、@飽和脂肪酸、Aコレステロール、Bトランス脂肪酸です。しかし、最近の研究の進展は目覚しく、これまで言われていた考え方に疑問符がつけられ始めました。@飽和脂肪酸はLDL-コレステロールを上げ、循環器系疾患のリスクを高めるといわれてきました。しかし、飽和脂肪酸の多くは善玉と言われるHDL-コレステロール(LDL-コレステロールを排出させる作用)も増やします。FAO/WHOの専門家会議では疫学調査の結果、飽和脂肪酸摂取量と循環器系疾患のリスクは無関係と結論されました(但し、日本人のデータでは日本人が摂取している範囲では、飽和脂肪酸摂取が多い方がリスクは低い)。Aコレステロールの大半は自らの肝臓で作り出されたもので、食事由来のコレステロールは多くても3割程度です。そのため、食事由来のコレステロールは循環器系疾患のリスクとは無関係です(論文によれば卵を2個/日食べても問題ありません)。但し、遺伝的に高コレステロールの方は、要注意です。Bトランス脂肪酸は大量に食べればLDL-コレステロールを上げ、HDL-コレステロールを下げ循環器系疾患のリスクを上げると報告されています。しかし、日本人が通常摂取している量では、循環器系疾患リスクを統計的有意に高めたというデータはありません。共役リノール酸(CLA)も広い意味でのトランス酸ですが、メタボ予防、ガン予防など生理的に重要なことが報告されています。私はCLAの専門ではありませんが、活発に研究が行われています。
国際酪農連盟(IDF、日本も加盟)では、乳脂肪にまつわる古くて根拠のない負のイメージを払拭させることに傾注しています。2013年に横浜で開催されるIDFサミットでは、国内外の酪農乳業関係者が集い、こうした講演も行う予定です。是非、ご参加いただき、世界の最先端の情報はこれだ!というものを掴んでいただければと思います。


○齋藤先生に対する質問

1.マスコミで話題となっているヨーグルトのインフルエンザ予防について教えていただきたい。

(回答)
インフルエンザはウイルスが起こす疾病で、通常の風邪とは異なる。最近報道でも取り上げられた菌体外多糖を生産する乳酸菌などを使用したヨーグルトは、摂取することが体内のNK細胞を活性化することで、インフルエンザを防ぐ効果があるという実験結果が出ている。 また、実際にヒト投与試験でもその様な結果が出ている。正確な機能性発現機構は不明であるが、このヨーグルトに使用されている乳酸菌が菌体外に作りだす多糖(EPS)が体内に吸収されることにより、免疫系が刺激を受けたNK細胞が活性化し、ウイルスを撃退するなどの結果に繋がったことが予想されている。

2.乳牛へ与える飼料の種類で機能性物質は違ってきますか?

(回答)
カルピスの色白バターはご存知でしょうか?ウシの飼料にビタミンAの少ない牧草を与えると、乳の色は白くなります。また、チーズの原料乳に良い香りを付けるために、牧草にハーブを沢山与えることも実際に行われています。この様に、牧草成分により、乳中の機能性成分を制御することも可能です。例えば、リノール酸含量の多い牧草を与えることで、乳中の共役リノール酸を増やすことも可能です。この脂肪酸は、がんを防いだりする機能性が知られています。

3.乳製品の中には牛乳、チーズ、ヨーグルトなど種類も多いですが、Caの吸収、整腸作用など製品によってそれぞれ優れている点はありますか?以前Caの吸収を砂糖などの糖分は吸収を妨げると聞いたことがありますがほんとうでしょうか?

(回答)
砂糖の摂取により、カルシウムの吸収が阻害されるという学説は、私は聞いたことがありません。同じ糖質ですが、乳糖(ラクトース)がカルシウムの吸収促進をするという学説もあります。しかし、電荷の無い砂糖(ショ糖)や乳糖が、電荷のあるカルシウムと結合することが考えられないので、検討や再考の余地があるかと思います。

4.チーズのメイラード反応の糖源は何であるとお考えですか?

(回答)
基本的にはホエイから移行した乳糖と考えられますが、乳糖は乳酸菌に利用され段々と減少します。教科書には明記されていませんが、チーズはカゼインが主成分です。カゼインの中には約15%のκ-カゼインがありますが、このタンパク質は糖鎖が結合する糖タンパク質です。この成分が分解する過程で生じる糖質(Gal, GalNAc)も全て還元糖ですので、アミノカルボニル反応の糖源と成りえます。その他、ホエイタンパク質中には沢山の糖タンパク質がありますので、これらの結合糖鎖からの糖源も決して量的には無視できないのです。

5.チーズを加熱して溶かした物を摂取した場合、チーズの菌や栄養素はどうなってしまうのでしょうか?

(回答)
チーズは乳酸菌を摂る食品ではないので、乳酸菌を摂りたい場合は、やはりヨーグルトでしょう。ヨーグルトもカレーに入れるなどして、加熱をしたら菌は全滅してしまいます。チーズ中には乳酸菌は活きていますが、ヨーグルトの様に1ml当たりに1000万個から10億個というオーダーでは決していませんので、チーズには乳酸菌は期待しないで下さい。 また、栄養素に関しては、通常のピザパイやシチューに入れて調理する程度の加熱では、大幅に変性して減少する栄養素は無いと考えて宜しいかと思います。


○阿久澤先生に対する質問

1. 加熱法と風味について、ミルクをアイスやジェラートにするが、その時味わうアイスの濃厚感と牛乳の濃厚感の栄養素は違ってくるのでしょうか

(回答)
アイスクリームと牛乳における濃厚感を構成する成分(栄養素)は異なると思います。アイスクリームに限らず、それぞれの製品において、複雑な成分構成も大いに関係すると思います。

2. 人が感じない物質を味覚センサーでできるということですが、逆に人が感じないものを分析するメリットはあるのでしょうか?

(回答)
人の味覚は多くの要素を複合して感じています。このことからも我々が感じ取れない(閾値に達しない)要素も複雑に関与しています。その要素を知ることは複合要素の一つとして重要であると考えています。

3. 牛乳の高温殺菌と低温殺菌でおいしさに違いがあると判断してよろしいでしょうか?低温殺菌の方がおいしいという意見があるようですが。

(回答)
その通りです。しかし、講演のなかでお話ししたように個人差があります。なかには加熱強度の高い(高温殺菌)牛乳の方がおいしい(好き)という人もいます。

4. 生乳生産と風味について、「牛の個体管理に左右される」というのは違うのではないでしょうか?飼料が重要で、この飼料の違いが第一胃の原虫の種類は一週間で換わってしまい、この原虫が栄養素となって菌体蛋白ができ、血液に取り込んで乳腺細胞で牛乳を生成するメカニズム故に、飼料が重要なのではないしょうか?北海道はサイレージで貯蔵するのが殆どで、成分が同等であっても消化性の繊維(OCC)率や炭水化物の分画(OCW)にかなりの違いが出てくる。これは酸やうま味に大きく影響していりことは間違いないと思われる。

(回答)
講演での説明のように、乳の風味を形成する要因はいくつかあります。個体管理もそのなかの一つとして重要な要素です。


○松井先生に対する質問

1. 生産現場に近いのに消費が伸びない理由として臭気の問題があるのではと思います。子供と旅行をして酪農現場での臭気で、子供はこういう臭気のあるところで作られる牛乳は飲みたくないといいますが、どう思われますか。

(回答)
牛の臭いは子供にとっては当然抱くと思います。子供には作られている牛乳は細菌の検査など衛生的に処理され安全な牛乳であることなど丁寧に説明することが大切だと思います。また農場見学をさせるときは清潔な印象を与える努力を、生産者もすることだと思います。

2. 牛乳の選択は価格ということでしたが、牛乳は低脂肪乳に比べ、値段が高いと思いますか?また、周囲の人と話していると牛乳と加工乳の違いを知らない人もいると思いますが、消費者協会としては皆違いを認識しているとお考えでしょうか?

(回答)
会員向けの便りや食品表示に関する講座、牛乳料理講習があるときなど「牛乳、成分調整牛乳、加工乳」などの話をしています。会員皆が知っているかというと今まで調査したことがないので分かりません。これからのアンケート調査に加えたいと思います。

3. 消費者が選ぶ動機は「最後はやっぱり価格(その日の特売)」となっています。多くのスーパーが牛乳の特売を集客のために利用し、そのため牛乳の価格が乱れ、生産者のコスト上昇を価格に転嫁できない事態が生じています。この事実をどう考えられますか?

(回答)
フェアトレードという言葉を随分消費者も耳にすることが多くなってきました。その製品(食品)に見合った正当な価格で消費者も買う、そのことで生産者をささえていくという意味ですが、個別的には行われていても、一般の消費者の行動にはまだまだ広がって行かないようです。消費者の意識を高めるのは難しいです。個々人の経済的なことも絡むので。消費者団体として少しでも生産者の現場の声を伝えるよう努力したいと思います。