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時の話題

No.17 平成23年度酪総研シンポジウム「牛乳・乳製品の機能性・おいしさを科学する」第1部「乳製品中の有用成分とその機能性」東北大学大学院農学研究科 教授 齋藤 忠夫

1.はじめに
 食品として唯一分子設計されているのは、天然物の中ではミルク位しかないと思われます。ミルクを飲みすぎて病気になったということはありません。それは食品として作られているからです。

 学校給食では牛乳は毎日出されています。その理由は、学校給食から牛乳を抜くと一日に必要なカルシウム量を確保できなくなるからです。日本は、戦後数千万人規模で、給食により臨床的実験をやったとも言えます。学校給食で、きちんと牛乳を飲む習慣をつけたおかげで、現在の日本の長寿が成立しているといえるのではないでしょうか。しかし、残念ながら20代の一番牛乳を飲んでいただきたい世代に学校給食の経験が生かされていなく、牛乳の飲み方が少なくなってきていることは残念ですが、学校給食が重要な役割を果たしてきたということはとても重要です。

2.感染症と伝染病
 最近の栄養学の考え方は、なるべく短時間で栄養素を沢山効率よく摂るという「栄養素密度」を重視しています。牛乳はコップ1杯で約140キロカロリー、女性ですと一日必用カロリーの約8%にしか相当せず、残りの92%は好きなものが食べられます。カルシウムは1日620mg必用ですが、その約三分の一をコップ一杯で補えます。特にビタミンB群を多く含み、栄養素密度が高い食品と言えます。いかに低カロリーで高密度かということですね(スライド1)。


(スライド1)


(スライド2)

1)乳糖(ラクトース)
 すべての生物にとって最も重要な栄養成分はグルコース(ブドウ糖)です。赤ちゃんに利用しやすいように最初からブドウ糖が入っていればすぐ利用できますが、やはり甘すぎるでしょうし、あらゆる微生物が欲しがります。ここからが一つの学説ですが、ブドウ糖の左側(非還元末端側)にガラクトース(β1-4結合)が結合して二糖になりますと(何故β1-4なのか説明できませんが)、一気に多くの微生物の利用性が下がってきます。左側のガラクトースは脳に使われ、右側のグルコースはエネルギーに使われると考えられています。赤ちゃんはグルコースからガラクトースを作り出すのにエネルギーを使いますから、最初からあったら、脳の活動に必須のガングリオシドの中の糖鎖構造を作るのにすぐ使えるということでいわゆるready to useの考え方をしているかもしれません(スライド2)。

 乳糖に関しては、この二糖を作り出すことができた哺乳動物だけが自然界の淘汰のなかで生き残ったのではないかと考えられます。

 乳糖が甘くないのは、赤ちゃんは甘すぎるといっぱい飲めないからです。また、これについては後述しますが、消化しづらいようにも作られています。これは、乳糖が小腸で全て分解吸収されずに、大腸に移行した際の乳酸菌の糖源となり、整腸作用に大切なのです。これらのことは、やはり乳は食品であるということを教えています。

2)脂肪
 牛乳の中の脂肪は99.8%がトリグリセリドです。グリセロールに対して3箇所に脂肪酸が結合しています(スライド3)。乳脂肪の構成脂肪酸にはパルミンチン酸とオレイン酸が多く、あまり不飽和度が高くなくて、中鎖の飽和脂肪酸のために、消化しやすい。あとは、酪酸、カプロン酸、カプリル酸という非常に低級な脂肪酸があります(スライド4)。牧草が分解される過程で出てきます。こういうものが含まれていることが乳脂肪の最大の特徴で、これが無いとチーズの特徴的な味と香りが出てきません。

 一昔前まではリノール酸、リノレン酸は体に良いと言われていましたが、今はリノール酸を摂り過ぎるとアラキドン酸のカスケード反応が動いてアレルギーが起きるので、なるべく摂らないようにということになっています。牛乳はリノール酸、リノレン酸は殆ど入っていないので、脂肪によるアレルギーは非常に少ないと言えます。


(スライド3)


(スライド4)

最近問題になっているトランス型脂肪酸(トランス酸)は摂りすぎると動脈硬化、心筋梗塞などの心疾患になる可能性を高めるので、アメリカ心臓協会は目の敵にしています。ニューヨークでは2006年以降、条例を出してトランス酸がファストフード店などで使われないようにしています。トランス酸はバクセン酸という形で2〜5%乳脂肪に含まれています。


(スライド5)


(スライド6)

 良い方の脂肪酸としては、ウシの第一胃内でリノレン酸が水素添加される過程で作られる共役リノール酸があり、がんを防ぐ、脂質代謝改善、動脈硬化抑制などの作用が知られています(スライド5)。

 アメリカでは2006年以降、トランス酸、総脂肪、コレステロールの表示が義務付けられました。日本の場合は、和食は脂肪が少なく、世界が理想としている食事は実は和食なのです。したがって、和食プラス牛乳・乳製品が私は理想的な食事だと思います。世界の動向の中で、隣の韓国もトランス酸は規制の対象となり、今後は日本でも規制されるかもしれません。

 アメリカでは牛乳のキャップの色で脂肪率が一目で分かるようになっています(スライド6)。一番売れているのは2%の脱脂乳。特濃牛乳のような脂肪率の高い牛乳があるのは日本だけだと思われます。私が見た中では全乳でも3.25%が一番高く、1%の脱脂乳や無脂肪乳は人気がありませんでした。アメリカでは脂肪含量に気をとられすぎて、逆に、子供達に重要な栄養成分が牛乳から摂られていなく、全乳が見直されているようです。アメリカの牛乳には通常ビタミンDが添加されています。

3)タンパク質
 最近はホエータンパク質が注目されています。アメリカの場合は大量にチーズを作り、大量にホエーが出ます。そのホエーをどうやって売っていくか。通常のWPCやWPI製品だけではとても無理なので、アメリカではジェネラルニュートリションセンター(GNC)を作ってそこで、店員にボディービルダーを配置して、ホエータンパク質をアスリート向きの食品として売っています。チーズ産業と健康食品業界が協力する形でホエーを上手に販売しています。


(スライド7)


(スライド8)

 何故牛乳タンパクが良いのか。それはリジンが多いからです。「桶の理論」(スライド7)ですが、図の左側は牛乳でリジンの含量が高い。これは、人は合成できないので食品で補わなければならない必須アミノ酸です。リジンの含量が高ければ桶に水がいっぱい入る、食パンだとかお米はリジン含量が少ないので、いっぱい食べないとタンパク質は摂れません。そこで、それに牛乳・乳製品を足すことによって、食事中のリジン含量が高くなれば、効率良く理想的なタンパク質量を摂れるというのが「桶の理論」です。

 牛乳のタンパク質は3%程度ですが、そのうち80%がカゼインで、20%がホエータンパク質です。カゼインはαs1-、αs2-、β-、κ-の4グループに分かれます(スライド8)。カゼインは分子構造が非常に変わっていて、このような分子は地球上に少ないだろうと思われます。加熱して伸びる、硬くならないタンパク質はカゼイン以外地球上には無いと思われます。だからチーズの独特の加熱して伸びるという食感に繋がるのです。カゼインは110℃で10分間加熱してもびくともしません。その特徴の一つには分子の中にプロリンというアミノ酸が多く、しかも均質に存在するために構造がアットランダム構造となり、耐熱性が生じるのです。ここで言いたいのは、カゼインには二面性があるということです。一つは加水分解を受けてアミノ酸ができやすい「易消化性の部分」といる側面と、胃や小腸からのタンパク質分解酵素に抵抗する「消化しづらい部分」が共存することです。赤ちゃん用のタンパク質だったら全部すぐ消化しやすいように作るのが当たり前と思われるかもしれませんが、ここが食品としての真骨頂で、分解しづらい部分は腸管の中に残り、生理的な役割をすることが推定されています。カゼインのリン酸基にカルシウムが結合して、腸内沈殿して腸内吸収がされづらいとされているカルシウムをいかに多く吸収するかというシステムがこのタンパク質の中にしっかりと組み込まれています。これが、カゼインが食品として作られているタンパク質であるということです。

 草食獣のように弱い動物は、次に親からミルクをもらえるまでの期間が長くなる可能性があるので、それで栄養成分を高くしています。赤ちゃんに効率良くタンパク質とリンとカルシウムを三点セットで与えることができるのかというのが、カゼインミセルの構造に集約されています。

4)ミネラル
 牛乳には、ミセル性リン酸カルシウムという特殊なカルシウム構造があるというのが一つの特徴です。ヨーグルトではカルシウムはpHが下がることによって溶け出てきてしまうので、ヨーグルトは全部混ぜて食べないとカルシウムを捨ててしまうことになります。チーズはpHが下がらないのでカルシウムはそのまま全部カゼインミセル内に残っています。


(スライド9)


(スライド10)

 ミネラルの特徴は二つあります(スライド9)。一つはカリウムとナトリウムの量が3倍違い、圧倒的にナトリウムが少ないことです。あとはリンとカルシウムは1対1で、これはカゼインミセルとの関係です。私たちの体の酵素反応の中で全く必用の無い元素はアルミニウムイオンで、酵素反応に関係していません。アルミニウムイオンは牛乳には入っていないので、やはり牛乳は食品として分子設計されていると思います。生体に不必要なものが入っていないことは実はとても重要なのです。

 牛乳は完全食品であるとよく言われますが、完全食品ではありません。なぜ完全じゃないかというと、食物繊維が入っていないからです。繊維が入っていると完璧だろうと思うが何故入っていないのか。牛乳カルシウムの吸収性が高いというのは、高い仕組みがある他に、逆に吸収を妨げるものが入っていないということが牛乳の最大の特徴です。例えば繊維が入っていない、フィチン酸が入っていない、シュウ酸が入っていないということが牛乳が食品であるという性質を説明しています。

 牛乳中のカルシウムの40%は吸収されます(スライド10)。魚は33%で、大して変わりが無いように見えます。実際、一食分で考えると牛乳1杯を飲むと91mgのカルシウムが摂れ、鰯は3匹食べて14mg、小松菜はおひたしで50g食べて16mg、いかに牛乳の効率が良いか。単なるパーセントではなくて吸収率と実際の食事量で考えなければなりません。こう考えるとやはり牛乳のカルシウムの吸収率は極めて高く、その中で、カゼインフォスフォペプチド(リン酸化したペプチド、CPP)、或いは雪印メグミルクが発見した乳塩基性タンパク質(MBP)というものも大きな役割を果たしています。

 カルシウムは、カゼイン分子のリン酸基にくっつくことで腸内沈殿を免れて腸管から吸収されます。高濃度のリンとカルシウムが必用な時に必用な場所に供給されるという理論に基づいています。 タンパク質の中は、約1%の塩基性タンパクが含まれます。骨は2〜3年で入れ替わりますが、そういうリモデリングの中で破骨細胞の性質を抑えて、骨を作る細胞の方を支援するという成分がこの塩基性タンパク質に入っているという画期的な発見があり、これは現在では商品にいかされています。

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