雪印メグミルクグループ 雪印メグミルク株式会社
酪農総合研究所 Research & Development Center For Dairy Farming

雪印メグミルクHOME > 酪農総合研究所 > 広報「酪総研」 時の話題

酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.17 平成23年度酪総研シンポジウム「牛乳・乳製品の機能性・おいしさを科学する」雪印メグミルク株式会社ミルクサイエンス研究所 主事 堂迫 俊一

1ページ目へ   No.17 目次ページへ

3.ミルクは虫歯に良い
 哺乳類が誕生する以前は、爬虫類や鳥類、昆虫類、魚類などは卵生の生物であり、その仔は卵を栄養として育つ。この世に哺乳類が出現したという事は、ミルクが卵に比較して栄養や生命活動を行ううえではるかに便利で有利であったからと思われる。

 ではカゼインはどのくらい前から存在していたのか、米国在住のカワサキ先生が面白い論文を発表されており、哺乳類以前の爬虫類の化石の遺伝子解析を行なうと、原始カゼイン遺伝子が爬虫類の歯のエナメル質(リン酸カルシウムであるハイドロキシアパタイト)に存在しているのを確認した。この事から、カゼインは歯にリン酸カルシウムを供給する役割を担っていたと推測されている。この説に従えば、原始カゼインはリン酸カルシウムを歯に供給し、更に進化してより大量にリン酸カルシウムを歯、骨などの供給する必要から原始カゼインが進化して、現在のようなカゼインミセルとなり、大量のリン酸カルシウムを包み込む仕組みを作り上げてきたと考える事ができる。したがって、この仕組みが哺乳類の現在の繁栄を支えていると考えられる。

 この原始カゼインの役割をみても、ミルクが虫歯予防に良い事が分かる。欧米では当然と考えられているが、日本ではこの様なミルクの虫歯予防効果を知っている人は少ない。歯医者さんでもご存知の方は少ないのが日本の実態である。2003年に国連WHOが世界の関連論文を調査して、歯の健康リスクを上げる要因と下げる要因について調べた。その結果、ほぼ確実に虫歯予防に効果があると認められたのが硬質チーズであり、その可能性が高いと認められたのは牛乳であった。逆に砂糖は確実に虫歯リスクを増加させると報告されている。キシリトールが虫歯予防に良い事は、大量のコマーシャルによって知らない人はいないが、牛乳もキシリトールと同様同程度に虫歯予防に効果がある事はこの報告でWHOが認めている。更に、硬質チーズはこのキシリトールや牛乳以上に確実に効果があるとされている。この様に、欧米では一般的にこの事は知られているが、日本では殆んど知られていない。

 この虫歯予防効果の理由は簡単で、砂糖を摂取すると数分で口中pHが5.5を下回る。このpH5.5は歯のエナメル質のハイドロキシアパタイト中のリン酸カルシウムを溶出させ、虫歯の要因となる。一方、pHが5.5を下回らなければ歯からリン酸カルシウムが溶け出す事は無いので虫歯の要因とならない。実際にチーズを食べると口中のpHは5.5以下に下がらないので、虫歯予防となる。これは、チーズ中のタンパク質がpH緩衝作用を示すためである。もし、虫歯となっても、原始カゼインがリン酸カルシウムの供給を目的としていたのなら、牛乳やチーズのカゼインからリン酸カルシウムが供給されて開いた穴を塞ぐと考えられる。

4.乳はなぜ健康によいのか
 乳は骨にも良い作用を示すが、乳が骨の主要成分であるカルシウムとリンを供給するばかりではなく、この他にカゼインやMBPなどのタンパク質がコラーゲンの合成を補助する作用もある。骨はカルシウムが主体であるが、その他にも骨格となるタンパク質が大切であり、ミルクはその両方を満たす事ができる。ちなみにMBPとは牛乳中のホエイタンパク質の一種で、骨を作る細胞を活性化し、骨を壊す細胞を抑える働きがある。

 他にもミルクは健康に良い事が知られているが、特にメタボを抑える効果がある。米国において体重が100kg前後の被験者に対して500kcal減の食事制限を実施し、その間カルシウム供給をサプリメントや乳製品で行う実験では、乳製品カルシウム摂取群の腹囲減少効果が最も高かった。 この牛乳の健康効果は現代になって新たに解った事ではなく、大化の改新の時代の古文書にも牛乳・乳製品が健康に良い事が既に記されている。
カゼインミセルの重要性が更に解明されると、より良い製品の開発に結びつき、更なる健康効果を持つ製品の提供も可能となる。また哺乳類の誕生の秘密にも迫る事が出来る。

5.乳糖の不思議
 最後に乳糖の不思議について考えてみたい。

 乳糖はグルコースとガラクトースから出来ているミルクの中にしか存在しない二糖類である。我々は摂取した乳糖を乳糖分解酵素でグルコースとガラクトースに分解して吸収するが、年齢と共にこの乳糖分解酵素が減ってきて、お腹がゴロゴロする人が増えてくる。私もこの酵素の活性が落ちているのでお腹がゴロゴロしていいのだが、実は大丈夫である。何故かと言うと、この乳糖分解酵素を出す乳酸菌、すなわちヨーグルトを食べているからである。このガラクトースとグルコースから合成されたものが乳糖であるが、この乳糖の一番の役割はエネルギー源である。しかし単にエネルギー源であると考えると、グルコースとガラクトースをそれぞれ単独で与えても良いはずであり、何故に乳糖とする必要があるのかとの疑問が起こる。

 母体で乳糖を作る為には、その合成酵素(ガラクトシルトランスフェラーゼ)が必要である。ところが、この酵素のみでは効率的に乳糖が合成されない。その為生体はホエイタンパク質の1つであるαラクトアルブミンをこの合成に利用している。このαラクトアルブミンの起源は多く生物で見られるリゾチームであり、歴史的に2億年から4億年もかけて進化してきた。

これはサッカーに例えると、乳糖合成酵素であるガラクトシルトランスフェラーゼだけでは乳糖が合成されないため、アシスト役が必要となった。その任務を担ったのがリゾチームであり、長い年月をかけて変化し、αラクトアルブミンになったと解釈できる。新生児は誕生と共に雑菌豊富な世界に生み出される。この雑菌の中には良い菌と悪い菌があり、この悪い菌を体内で増やしたくない。そこで、乳糖を分解して餌として利用できるのは味方である良い菌、これを分解できない菌は敵である悪い菌として、敵と味方の識別の為にこの乳糖存在意義の複雑さがあると私は考えている。
最後のまとめとして、今のミルクの研究は種々発展を遂げているが、それを更に進める事で新しい乳製品や効率的な製造法の開発が出来ると共に、ミルクの健康効果もわかってくる。
更には生命の神秘解明にも役立つのではと思っている。

弊社のメッセージに「未来はミルクの中にある」があるが、これはサイエンスの面からみても奥の深いメッセージであり、これを進めていく事で我々の生活がもっと豊かになると思っている。

以 上
1ページ目へ 2/2ページ No.17 目次ページへ