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酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.13 平成21年度酪総研シンポジウム「国内外における企業、団体等の再編動向とその対応について−変貌する市場環境において酪農乳業はどう対応していくか!−」総合討議「総合討議の模様」

パネリスト
(講演者)
東京大学大学院経済学研究科 准教授 矢坂 雅充氏
道東あさひ農業協同組合 代表理事組合長 原井 松純氏
北海道立十勝農業試験場生産研究部 主任研究員 原 仁氏

座長
雪印メグミルク(株)酪農総合研究所 部長 森 一樹
    〃                  部長 佐藤 正邦

【内 容】

■質問者;名寄市立大 清水池氏

(1) 「ミルクチェーンを構成する事業者の垂直的統合組織」の具体的にどのようなものを想定しているか?

(2) 乳価変動幅が大きくなると予想される、価格転嫁の他にある程度政策的に変動リスク緩和の必要性がある。酪農版所得補償制度も議論されているがお考えは?

(矢坂)  ヨーロッパの国々では、食品産業の部門ごとにinter-professional institute(「職業間連合組織」と訳されている)といったような組織が多く設立されており、酪農乳業部門でも酪農生産者団体、乳業協会、小売業協会、消費者団体などのミルクチェーンを構成する組織が集まって一つの組織をつくっている。生産から消費にいたるまでの垂直的な統合組織がフードチェーンとしての課題を検討し、政策提案などを行うことになる。牛肉トレーサビリティが確立される際にも、ビーフチェーンのインターナショナルな業界組織がトレーサビリティ・システムの原案を作成して政府に提案し、各国の提案を踏まえてEUの法律が制定された。
  日本ではほとんどの業界組織は、食品の生産、加工、流通といったフードチェーンを輪切りにしたような横断的な組織になっている。政府の補助事業の受け皿として業界組織が形成されてきたからであろう。
  それでも例外的に、日本の酪農乳業にはインターナショナルな組織ともいえる「(社)日本酪農乳業協会(J-ミルク)」がある。ミルクチェーンの課題に対して団体間の協議や調整を図り、共通の問題への対策を提案するような機能をJ-ミルクはまだ充分に発揮していない。ミルクチェーンを構成する事業者の円卓会議の開催や、特定の課題に対するタスクフォースを設けるなど、酪農乳業界が直面してる問題に積極的に取り組んでいくことを期待している。たとえば、牛乳・乳製品の安全性・信頼性確保といったミルクチェーン全体で取り組まなければならないような課題はJ-ミルクが中心に検討していくべきだろう。
  いま一つの論点に関しては、牛乳・乳製品の市場環境がめまぐるしく変化し、過剰あるいは逼迫にともなう需給調整が求められる状況で、日本では価格による需給調整をできるだけ回避してきたことを見直すときがきていると考える。これまで酪農・乳業では過剰によって市場価格が下落しそうになっても、価格調整によって需給を調整することをできる限り回避し、数量調整によって需給バランスの回復を図ってきた。酪農生産者も乳業メーカーも価格変動リスクに対して鈍感になっていった。
  しかし、飼料や燃料などの価格上昇によって生産コストが上昇すると、こうした数量調整では経営の改善を図ることができない。どうしても乳業さらには消費者に価格変動の相当部分を転嫁していかざるをえないのだが、価格調整を否定してきたために、市場の需給シグナルとなる乳製品市場相場などはすでに形骸化しており、価格転嫁のためのインフラが整っていない。
  むろん価格調整だけで需給を調整しようとすると、大幅な価格変動が必要になり、現実的ではない。数量調整に過度に依存することなく、酪農と乳業だけでは処理しきれない価格変動による負担を相互に押しつけるのではなく、客観的な市場相場価格にもとづいて流通業者や消費者に転嫁できる仕組みづくりが必要であると考える。
  ヨーロッパでは乳業者が、場合によっては酪農生産者も乳製品先物市場を活用して価格変動リスクをヘッジする可能性を模索する議論を行っている。価格変動リスクを投機家にも負担してもらって処理しようというのである。不足払い制度によって海外市場との関係が遮断されてきた日本とは対照的である。
  日本の牛乳・乳製品市場も完全に海外市場から遮断されているわけではない。むしろ徐々に相互の連関は強まってきている。チーズや乳調製品の市場がその典型であろう。脱脂粉乳やバターの国境調整措置が緩和された場合のセーフティーネットについてもいまから検討していくべきだ。乳製品市場への公的介入や民間基金などによる金倉助成など、いろいろな手法の可能性を検討し、予め特定の手法をタブー視してはいけないだろう。
  戸別所得補償制度は米から実施されるが、その手法をそのまま酪農に応用するわけにはいかない。国境調整措置の動向に依存するが、いまのところ生乳生産費が乳価を上回っているわけではない。むしろ数量管理による需給調整に加えて価格調整手法を導入していくことにともなう価格変動リスクへの対応として、新たな不足払い制度をデザインすることも考えられよう。不足払い補給金の総予算を固定して、単価を需給状況に応じて変化させる手法も一つの考え方だろう。

■質問者;土井氏

(1) 牛乳も豚肉のようなこまかな地域ブランド化が可能か?生乳の一元集荷多元販売制度下では、大規模乳業にとり困難ではないか?

(矢坂)  牛乳の地域ブランドの確立は、古くて新しい問題である。地域ブランドを含めて、魅力的な牛乳アイテムを増やす投資を酪農乳業界は怠ってきたのではないかと思う。日本とは対照的に、牛乳消費が急速に拡大している中国では、牛乳商品は朝用・昼用・夕用といった時間帯別の牛乳、サラリーマン用・スポーツマン用などの消費者のタイプ別牛乳、ココナッツや花などの各種フレーバー牛乳、オーガニック牛乳、初乳牛乳といったように、牛乳・ヨーグルト売り場は、華やかで活気があって目を奪われる。アイテムの数は日本のそれをはるかに上回る。
 オーガニック牛乳、放牧牛乳など酪農のイメージを膨らませるような商品、また、成分調整牛乳のように乳脂肪を抽出して脂肪率を引き下げた商品、特定の栄養素・微量成分を強化した健康食品的な機能強化牛乳など、乳業にとって商品開発の余地はまだあると考える。日本企業によく見られる横並び主義から脱却して、企業として、そして酪農乳業界として商品開発リスクを取っていく姿勢が求められているのではないか。そうすると単純な生乳の一元集荷多元販売制度ではなく、酪農生産者と乳業メーカーの協調や提携関係を排除しない長期的な生乳流通システムが必要になってくる。不足払い制度の成果をふまえつつ、それを緩和あるいは部分的に壊していくことも重要であろう。

■質問者;士幌 石垣氏(酪農家)他

(1) JA道東あさひの設立について、それぞれのJAの事業実績に差異がある中で合併推進のための費用は、何処に一番費やしたか?

(2) 合併による個々のメリット?その見通しは?数値で。

(3) 合併一年目のJAの収支は?

(4) 送乳運賃一律1円は本当か?それで運輸会社は成り立つのか?

(原井)  各JA、経済事業、信用事業、集荷事業など酪農主体地帯は、殆ど同じ事業である。16年〜19年合併推進検討委員会で協議してきた。
 メリット還元は、賦課金や各種手数料の一本化で組合員の負担減を最優先し、一番安い農協の基準を基本としている。生乳集荷は、直営が1ケ所で他は委託運送会社である。1〜1円80銭の幅があったが、最低価格に合わせていく。物流プロジェクトで民間コンサルと効率的集荷体制を構築してきている。
 乳価値上げもあり、事業利益は1億円弱、当期利益1億2千万と計画より増加の予想。

■質問者;司会

(1) TMRセンターの糞尿処理と臭気問題、機械更新への対応は?

(2) TMRセンターへの参加の制約は?良いことばかりか?

(原)  草地管理上は、適正な養分量を投与するのが基本である。規模が大きくなると、どうしても化学肥料を過剰に投与することが多い。
 TMRセンターは、面として地域に関わるので、全体の土地に適正量を撒ききることが大事。コントラ委託でしっかり行なうことも良い。しかし、一気に短期間で散布すると問題がある。学校時間は避ける、雨の降る前に撒く、観光客の活動時間以外など配慮するルール作りが必要である。
 参加希望者個々の経営分析で、正直に説明する。もともと飼料作り、飼養管理が良い農家はあまりメリットがでない。もうちょっと頑張れば農家は、メリットがでやすい。

■質問者;陸別 畠野氏(酪農家)

(1) 苦しい時代で、合併を選択したのだと思うけれど、景気が良くなったら分散して自立し、もとの型にもどらないか?

(2) 合併、共同化して農家が少なくなると地域、町村が成り立たなくなる可能性、町村を維持するためにはどうすればいいか?

(3) 規模拡大した農家の分家、田分けは考えられるか?

(矢坂)  農協経営が増え続ける負債処理のために維持しえなくなり、合併が進められてきた。しかし、組織を合併、統合して、その成果を実現することは簡単ではない。むしろより多くの困難を抱えることすらある。組織の合併目的を明確にして、職員だけでなく、組合員を含めて農協に関わる人々が想い描く目標、姿勢、視線を揃えていかなければならない。農協合併によって実現しようとする新しい機能、夢を語ることができず、リストラの必然性ばかりが語られる。農協組織にとって背水の陣を敷いて合併を進めていることは理解できるが、合併にともなう苦難を乗り越えていく工夫・意欲が大切である。
 このことは農家の合併による農業法人設立、企業統合による持株会社の設立にもいえることだろう。組織の合併や統合は、目標ではなく、新たな事業の出発点であることを理解すれば、これまでどおりの地域社会や地方自治を維持していくことは難しいかもしれないが、新しい状況にふさわしい姿を想い描き、実現していくことは可能であるように思う。

(原)  経営規模が一定以上になると、雇用が必要となるので、会社をリタイヤされた方なども働けるようにしてはどうか。しかし、農村に住んでくれるか?街に住んで通勤することも考えられるのでないか。
 子どもの教育面、定年退職者が農村生活で望むなどが増えて欲しい。そのためにも地域での優しさ、楽しさ、人間関係作りが大切である。

(原井)  戸数減少を何とか食い止めたい。一戸あたりの所得増を目指す。多様な形態から環境を整え、他の事例を参考に、価格維持できる政策へのお願いなど努力して理想の酪農郷を作りたい。

■質問者;司会

(1) 企業が海外事業を展開して、生産者のメリットは?

(矢坂)  現状に比べてあまりないだろう。企業が日本産生乳を使う保証はない。ヨーロッパは陸続きで生乳は国家間の広域物流が容易だが、わが国は島国である。酪農が乳業ニーズを把握して、対応していかなければならない。メリットというより国産の長所を活かす体制が望まれる。

■質問者;陸別 畠野氏

(1) これだけ時代が変化、農家は返済メドが立たない状況。5年後の姿は?

(原)  5年後に評価されるのだろうが、乳価は少しずつ下がる、資材はこの水準継続。
 これで、経営計画が立たないようではいけない。酪農技術に問題があるのであれば早急に対処しなければ、いろいろな機関に相談を。

以上