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時の話題

No.9 平成19年度酪総研シンポジウム「乳製品貿易の拡大とわが国の酪農・乳業」学校法人 酪農学園 理事長 麻田 信二

 ご紹介いただきました麻田でございます。
 私は酪農政策の専門家ではありません。しかし、本日お集まりの、各地域で酪農関係の指導者あるいはリーダーとして酪農産業に対するさまざまな取り組みをしている皆様方に、これからの日本の酪農や農業の方向性といったものについて少しでも参考になる話ができればいいなと思います。皆様方の考え方や取り組みが、これからの日本の酪農、北海道の酪農を大きく変えていく原動力になるものと期待しております。

農業・食料の視点から日本社会のあり方を問う
  現在の日本の食料需給率は39%(カロリーベース)です。そして農業者はどんどん減っていく、高齢化も進んでいく、この北海道ですら65歳以上の農業従事者の割合は30%を超えたのです。このような状況をみると、日本社会のあり方が問われているのだと思うのです。
 実際、農業が衰退し栄えた国は皆無なのです。ソビエト社会主義共和国連邦がなぜ崩壊したのか。私は『ゴルバチョフ回想録』(新潮社、1995年1月出版)を読んでわかったのですが、ソ連も農業政策、食料自給に失敗したのです。ソ連が崩壊する直前、肉を買うための配給券を持った市民が、長い列で並んで待っている姿がよくテレビニュースの映像で流れました。2時間も3時間も並ぶ。しかし、肉がなかなか手に入らない。この状況が2年くらい続いたかと思います。そしてソ連は崩壊、国が滅んでしまったのです。

 最近、"品格"という言葉をタイトルに使った本をよく見かけますが、数学者の藤原正彦さんが書いた『国家の品格』(新潮社、2005年11月出版)という2006年の流行語大賞に「品格」が選ばれた本があります。この『国家の品格』には、品格ある国家の4つの指標を挙げています。その最初に、「独立不羈(どくりつふき=他からの束縛を全く受けないこと。他から制御されることなく、みずからの考えで事を行うこと)」を挙げています。今の日本をみるとアメリカの植民地にさえ思えます。その理由は、食料自給率が40%を切る状況だからです。品格ある国家の条件として、いかにこの食料自給率を上げていくかが大切だということから「独立不羈」が4つの指標の最初に掲げられているのです。それからもう一つ、品格ある国家の指標として挙げられているのが「美しい田園」です。端的にいえば、国を担っていくような才能を持つ人材は美しい田園があるような地域から生まれる、ということがこの本には書かれています。そのようなことも踏まえて、私たちはもっと農業や酪農についてしっかり考えていかなければならないのではないかと思うわけです。

経済格差の拡大と地方の衰退
  しかし、私たちは食べ物なくして生きてはいけないわけですから、自給率39%の日本の中でどうやって生きていくかということです。今、日本経済は戦後最長の景気拡大といわれています。しかし、皆さんの生活実感という面では良くなっていると思われる方は少ないのではないでしょうか。先日、2006年のサラリーマンの所得額が公開されました(平成18年 民間給与実態統計調査、国税庁)。日本のサラリーマンは約4,500万人。この平均給与は約430万円です。このうち約1,020万人(23%)が年収200万円以下という状況で、しかもその割合は年々増加しています。要するに個人の所得格差がどんどん拡大しているのです。アメリカも同様です。アメリカでは人口3億人のうち13%に当たる3,700万人が経済的に満足な食事ができない状況といわれています。

 このような状況のなかで北海道はどうなのかというと、先日の新聞に、「2007年に北海道から2万人が転出し、これは47都道府県でトップの転出数」だと書いてありました。そしてこれも新聞に載っていたのですが、「この5年間で、北海道の正規労働者は10万人減少し、不正規労働者が3万人増加した」といいます。つまり差引7万人の労働力が減ったことになります。今から5年前、北海道の失業率が瞬間的に8%を超えたことがあり、その後、失業率が改善に向かったのですが、その理由は、実は道外へ労働力が転出してしまったというのが実態です。

農業政策には地域の声を
  今、本州では集落崩壊問題が盛んに言われています。北海道でも統計を見ると同様の傾向が出ています。このような状況で日本はどうなってしまうのかと考えたとき、私はいかにして農村を元気にしていくか、農業を元気にしていくか、酪農を元気にしていくかということに尽きると思うのです。今、輸入飼料が高騰して酪農が大変だというのであれば、やはり日本の食料自給率を上げるために野山を活用して食料を作る。人間の食料にならない草を良質なタンパク質に変えていくといったような思い切った方向転換が必要です。そうでないとこの国は衰退していきます。そのことは政治の世界でも同様です。酪農生産者がさまざまな要求を国に出し、政治家がその対応を考えるといった単発的な視点ではなく、もっと時代の流れを見据えた長期的な視点で対応を考える必要があるのだと私は思います。

 1961年に農業基本法が施行され、政策的に酪農振興が進められてきました。そして、1999年には新しい基本法(食料・農業・農村基本法)が成立し、品目横断的経営安定対策や中山間地対策など、さまざまな対策がおこなわれてきました。しかし、これらの対策は、いざやってみると不都合が生じるということで改正がおこなわれてきました。いろんな対策が出されますが、これらはもっと現場に合った形でやっていかなければならない。国によって宛がわれたものに地域の農業や酪農を合わせていく方法では、本当に地域のためにはならないのではないかと思います。今、各地域で活躍している担当者の皆さんは、あまりにもおとなし過ぎるんじゃないかという気もします。やはり、声を出さなきゃならないんですね。誰かがなんとかしてくれるだろう、誰かが考えてくれるだろうではなく、現場に合う方法を、現場で考え、現場から声を出していく、ということが必要なのだろうと思います。
  しかし、有機農業推進法(2006年12月)の施行は、北海道あるいは農業に対して、今までの農政とは違う希望があると感じています。この法律によって、日本も有機農業といったものに、ちゃんと予算を付けて支援することになってきたのです。健康問題、環境問題、いろんな問題が言われているなかで、持続可能な農業をしっかり国内に根ざしていくという意味では、この法律が果たす役割は非常に大きいのではないかと感じています。

消費者の理解がなければ国内農業は成り立たない
  今回の乳価交渉は、本州3円北海道5円の乳価値上げで決着したと聞きます。しかし、この内容について消費者の理解が得られるのだろうかという疑問があります。価格が上昇したら、消費者は買い控えするのではないか…と。今までの酪農政策やさまざまな取り組みは、ただ単に、すべてを供給側からのみ考えてきたという感じがします。コメにしろ乳製品にしろ、今までは国が管理してきた経過がありますから、生産者は国にどんどん要求していけばそれで良いということで、消費者まで考えが至らなかったのかもしれません。

 したがって、消費者の動向や需要を見据えることは非常に大切です。日本の食生活もどんどん変化してきました。牛乳・乳製品需要も200万tから1,200万t(生乳換算)まで伸びました。しかし、これからは飲用乳消費も減少すると見込まれています。学校給食も戦後の時代は、"いかに子供たちに栄養を補給するか"という観点で進められてきました。しかし、今では栄養補給だけが目的ではなくなってきました。まだ教育委員会や地域の取り組みはあまり意識転換する様相をみせていませんが、今後はどうなるかわかりません。つまり需要側と供給側では、その意向がかなりミスマッチしてきているのではないかと思えるのです。ですから、このような中で酪農政策というものを考えたときに、指定生乳生産者団体による一元集荷の体制が、消費者の嗜好の変化にうまく対応できるのだろうかということを考えなければいけませんが、業界全体としては、しっかりと需要や生産現場を見ながら管理していくということは絶対に必要だと思います。しかし、その方法のなかにも、もっといろんな工夫が必要だろうという思いで、私は酪農業界をみています。

貿易戦争の行方にあるもの
  今年7月に環境問題・地球温暖化をテーマに北海道洞爺湖サミットが開催されます。地球が温暖化になって何が困るのかといえば"水"です。それから食料生産が不安定になるということもあります。そうなると、日本のように海外に61%もの食料を依存しているような国は、まず立ち行かなくなるのです。食料は我々が生きていくうえで無くてはならないものですから、金にものを言わせて買えばいいというものではないのです。そういった意識は日本の生産者にあり、皆さん誇りを持って農業をやっている。しかし、アメリカは違います。大豆、トウモロコシ、どっちを作るかといえばトウモロコシです。それは食料生産ではなくエタノール原料として高く売れるからです。これが大豆の方が高く売れるとなれば大豆を作る。それが食料であろうとエネルギー原料であろうと、儲かればよいと考えるのがアメリカの農家で、消費者や日本が求めようが求めまいが関係ないといった姿勢です。しかし、日本の生産者はそうではありません。このような違いがあるのです。このような面も考えると、やはり日本の食料自給力をいかに高めていくかを、国民総意のもとで考えていく必要があると思っております。

 貿易立国である日本が、食料自給率の低下と社会の有り様を考えたときにやるべきことは何か。私は以前から「貿易戦争により、国内農業が崩壊し、日本が滅びる」といつも思っていました。もし農産物を輸入するとなれば、国内農業は壊滅的な打撃を受けるわけです。そしてそれが一度潰れてしまったら、再生できるかと言われればできない。命の糧をすべて外国に持っていかれるということなのです。

 イラストレーターを経て、現在、評論家・随筆家として活躍されている橋本治さんが書いた『日本の行く道』(集英社、2007年12月出版)という本があるのですが、この本の中にもかなり食料のことが書かれています。その内容を少し紹介すると、「自分の国でいるものくらい、少しは自分の国で作れよ」という項で、「日本で最大の自動車会社が、アメリカやその他の国に自動車を輸出して、結構な利益を上げています。そんなに利益を上げると、日本の農家が壊滅するのです」と書かれています。これはどういうことかというと、日本がどんどん輸出をすると、そのまま輸出しっぱなしということはありえないわけです。「だったらその分、ウチの国にも儲けさせろよ」ということで、農産物を日本に輸出することになるのです。このようななかでアメリカは次に何を考えているかというと、このことについても先の本では、「(アメリカは)工業先進国のくせに『輸出できる工業製品』がなくなって、『農産物をもっと買え』といい、揚げ句の果ては、『資金を輸出して、儲かっている他国の上がりを取ろう。そうすれば、アメリカは世界一だ』なんていう倒錯した結果になるのです。『ファンド』というものが、二酸化炭素と同じくらい世界をおかしくする迷惑なものになっていることは、分かる人には分かっているはず」と書かれています。
  ある雑誌に、世界にどれくらいのファンドがあるのかという記事が載っていました。6兆円の1万倍だそうです。兆の上の位は京ですから6京円です。このファンドによって農産物の先物取引もおこなわれているわけです。現物がないにもかかわらずそれを金で買う、現実ではありえない世界なのです。そうやって日本が貿易によって獲得した外貨が吸い上げられ、アメリカに溜まっていくのです。このような社会の有り様というのは長く続くわけがないのです。ですから、このまま貿易戦争を続けていったら、日本は滅びるということなのです。

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