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次にオーストラリア酪農の生産性を見てみると、土地生産性(milk production per hectare used by milking cows)、乳牛生産性(milk yield per cow)、労働生産性(weekly milk production per labour unit)のすべてが伸びていますが、なかでも一番伸びているのが労働生産性です(図7)。220頭・1千トン出荷の規模の農場でも二人体制でやっていますので、一人当たりの生乳生産量が500トンということになります。日本でもメガファームでこの水準の農場はありますが、個人経営でのレベルだと考えると、かなり高い生産性といえるのではないかと思います。この生産性を支えるツールとしては、例えば子牛の哺乳に対する省力化技術導入や搾乳方式の変更により人手を掛けない工夫がなされています。搾乳方式についていえば、簡素で以前から多く使用されていたスイングオーバーユニット(herringbone swingover unit)はさらにシェアを伸ばし50%を超え、また、大型農場を中心にロータリ(rotary)も10%を超えるほどシェアを伸ばしています(図8)。
図7 労働生産性の推移

図8 搾乳方式の変化

オーストラリアの酪農といえば、草地に依存した粗放的な飼養管理で、1頭当たり乳量も低いとイメージされるかと思います。しかし、以前3,000キロだった1頭当たり平均乳量は、最近では5,000キロを超え、さらに急速に伸びている。なかには牛群平均1万キロという農場も珍しくない状況です。やはり乳量を増やすという目的で濃厚飼料給与量が増加しているのですが、現在の濃厚飼料給与量は1日当たり平均3キロ程度。牛舎がありませんので、その給与方法は、直接草地にばら撒く方法です。またサイレージ調製もスタックサイロを使用し、お金を掛けないスタイルを徹底しています。
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オーストラリア酪農とニュージーランド酪農は非常に似ていると思われがちですが、かなり違うところがあります。その点を踏まえることが、今後のオーストラリアとの付き合い方を考えるうえで重要ではないかと考えますので、あえてニュージーランド酪農にも触れたいと思います。
まず、オーストラリアはボードを解体し完全自由化しました。いわば乳価決定や物量コントロールなどに対して公的権限はありません。ところがニュージーランドはデーリィボードと当時の協同組合が統合し、フォンテラという大きな農業協同組合会社を結成しました。このフォンテラはニュージーランドの生乳生産量の95%をコントロールする一種の独占体です。フォンテラは乳製品の輸出もすべてコントロールする非常に強い力を持っている組織です。このようにニュージーランドは自由化によりボードを廃止しましたが、現実的な輸出独占体は維持している状況です。またフォンテラはオーストラリアの酪農協同組合会社であるボンラックを買収していますので、ニュージーランドの酪農協同組合会社がオーストラリアの酪農家を組織しているという状況にもあります。
ちなみにオーストラリアにナショナルフーズという牛乳・乳製品、果汁を販売している会社があります。サンミゲルというフィリピンのビール会社がその株を所有し、ナショナルフーズの親会社になりました。一方、アジアとオセアニアを海外の販売重要拠点と位置付ける日本のキリンビールは、サンミゲルとオーストラリアのビール最大手ライオンネイサンに出資しているのですが、先日、キリンビールはサンミゲルからナショナルフーズ株を買収しています。つまり日本の資本がオーストラリア酪農に登場したという状況になりました。このようにオーストラリアの市場をめぐって各国の企業がしのぎを削っているという状況になっています。
オーストラリアの酪農協同組合会社のなかには経営が不安定な会社も少なくないのですが、その背景には量販店の力の強さがあります。その影響からメーカーもなかなか収益が上げられないという状況で、そのしわ寄せが酪農家に及んでいるという構造になっています。オーストラリアの小売業はWoolworthsとColes Myerという2つの小売業が約7割(2000年)を占めるほど独占的です(図9)。アメリカも名の知られる小売業がたくさんありますが、シェアをみるとそれほど独占的ではなく、上位3社あわせても2割ほどしかありません。オーストラリアの小売業は、このシェアの高さ、バイイングパワーを背景として物資を有利に仕入れており、反面、酪農家は非常に厳しい状況に置かれているという状況です。これはオーストラリアに限らず、日本でも以前から言われていることですし、イギリスなども同様の傾向となっています。
| 図9 食品小売業上位3社の市場占有率 単位:年、% |
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まず2007年の干ばつの状況を見てみると、ほとんどの地域が甚大な干ばつ被害とされる赤色に染まっているのがわかると思います(図10)。オーストラリアは2002年に大きな干ばつが発生し、その時は100年に1度の大干ばつといわれました。しかし2006年には2002年を上回る大干ばつがあり、続く2007年も2年連続の干ばつになりました。この干ばつにより穀倉地帯が壊滅的な被害を受けたという状況です。冬穀物の年次変化を見ても、1990年代の中頃に一度大幅な収量の落ち込みがあり、その後は2002年と2006年に大きな落ち込みがあります。トレンドとしては年々増加していますが、年次によって干ばつによる大きな落ち込みが見られます(図11)。
図10 2007年の干ばつの状況

図11 冬穀物の年次変化

次に酪農場の収益の推移ですが、2002年2006年ともに干ばつの影響により、現金収入(farm cash income)、農場利益(farm business profit)ともに落ち込んでいます(図12)。純利益は完全にマイナスですし、所得も平均で200万円ほどでしたから、生活することすら厳しい、悲惨な状況でした。
また、酪農家の54%が灌漑によって高い生産性を維持しているのですが、灌漑水にはコストがかかります。もし干ばつになれば配分される水の量は減らされ、しかも料金が通常より高くなりますから、二重の痛手を被ることになります。ここ数年の干ばつによる影響によって酪農家の負債は非常に多くなり、平均で5千万円ほどになっています。200万円の所得で5千万円の負債ですから、非常に厳しい経営ということがわかると思います。
図12 酪農場の収益の推移

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現在、オーストラリアの生乳の5割が輸出に向けられています。主要穀物も含め、基本的に輸出依存の国ですが、干ばつなどの影響で生産量が減れば、当然輸出量の減少につながります。例えば2002年の大干ばつのとき、日本向けソルガムの輸出はほとんど無くなりました。つまり生産量が確保できない場合は直接輸出にしわ寄せされるという仕組みです。
またオーストラリア酪農の側からすると、これ以上現物が無いというか、生産が伸びないというか、輸出を増やすには非常に厳しい状況です。世界的に穀物が不足し、価格も高騰している現在、穀物を乳牛に給与して乳量を伸ばすといった手法も難しくなってきています。そう考えると、さらなる乳量水準の低下も懸念されるかもしれません。
オーストラリア酪農の強さといえば、徹底したコスト削減による生産性の高さに象徴されます。しかし、弱さといえば持続性や安定性に欠けており、これを補う自然的な要件は失われていますし、セーフティネットなど政策的なカバーも規制緩和によってほとんど失われている状況です。このことからオーストラリアの酪農は、世界の市場と裸で向き合わなければならない厳しい立場に立たされている状況だということがわかります。ですから、日本はこういったオーストラリアの強さと弱さを十分考えながら付き合い、さらにはEPA交渉を進める必要があるのではないかと考えます。
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