雪印メグミルクグループ 雪印メグミルク株式会社
酪農総合研究所 Research & Development Center For Dairy Farming

雪印メグミルクHOME > 酪農総合研究所 > 広報「酪総研」 時の話題

酪農総合研究所

広報「酪総研」

時の話題

No.6 平成18年度酪総研シンポジウム「フードシステムからみた生乳需給の現状と展望」 株式会社アレフ 代表取締役社長 庄司 昭夫

 日本では牛乳が余って捨てていながらも、海外から乳製品を買っているのが現状だと思います。牛乳はチーズなどに加工すれば捨てる必要はないのではないでしょうか。チーズにすると売る時期を選ぶことができます。製造に3か月かける物もあれば、1年かけて作る物もある。そして加工度が高まれば付加価値が上がるという理屈が成り立つのです。
 日本の場合はコメが余ったら減反だといいます。日本は白米しか食べない。そして白米だけを美味い、美味くない、と比較する単純競争の世界です。しかし、イタリアにはいろんな種類のコメがあり、コンビニエンスストアには、白米、スープ用のコメ、サラダ用のコメ、リゾット用のコメなどがあります。スペインに行けばパエリア用のコメがあるように、それぞれの料理に合うコメが作られ、選択されている。しかし、日本ではすべてが白米。米農家は多いですが、白米だけ作って、「これが美味いとかまずい」とか言っています。けれども、試験場の中のいわゆるお蔵入りにしてあるまずいと言われているコメのなかには、いろんな料理に合うコメがいっぱい眠っているのかもしれないという気がしています。つまり、加工方法、料理方法、サービスなどを考えれば、いろいろな突破口があると思います。

1.外食産業の発展と日本農業の関係
 今までは誰よりも早くアメリカの真似をした企業が優位に展開してきました。しかしこれからは、逆にそのことが足を引っ張る状況になりつつあるのだと思います。その勢いで外食業も急成長してきましたが、現状では次第に悪くなりつつあります。それは農薬や化学肥料問題、健康に対する志向性の問題などが大きく影響していると思います。今挙げた問題点について、外食業も流通業もアドバルーン的には話題にしますが、実際には高い価格の商品を提供するなど、ぜんぜん販売に繋げようとしていません。そして化学肥料と農薬を大量に使った農作物(原料)を使って大量生産に努めています。そのような農作物に競争力があるのかというと、それに向いているのはアメリカやカナダなど大規模型の農業の手法だと思います。農薬もヘリコプターやセスナで撒く規模ですから、人力で雑草取りなんかやっていられない。そうすると、畑が狭い地域が欧米スタイルのやり方をやっても競争は不利で、大規模なほど有利です。そういった成り立ちからみますと、農業は外食業や流通業そして食品メーカーも含めた問題が大きいと思います。農業の観点からみれば、それらは仲間ではなく、対立すべき相手なのではないかとさえ思えます。それらが栄えるほど農業が良くなっているかといえば、ぜんぜん良くなっていないように思えます。北海道の酪農家もどんどん減る一方で、とても気がかりです。
 昔、私どもの会社も店数を拡大するため、いろいろな考え方をずいぶんアメリカに学んできました。同様にいち早くアメリカの真似をして、その再現によって大きくなった企業がたくさんあるわけです。
 そのような企業が何を基準に商品開発するかといえば、世界中の安い素材を前提とした商品開発。日本にある地域の素材を前提にした商品開発をしているところなどほとんどないんじゃないでしょうか。そうなると当然ファストフード店やコーヒーショップなど海外の食文化を日本で真似して展開することになり、海外で売っているものを売り始めます。ファストフード店などで扱う飲み物はコーラやオレンジジュースばかり。オレンジジュースなどは売れば売るほどフロリダのオレンジ農家を助けていることになります。そういった海外の食文化を真似するということは、日本に無い食生活をどんどん増やすということです。海外の食生活を取り入れれば、その地域の素材を買い、使うようになる。そうなれば当然自給率は下がるわけです。そのようなことも含めて、現在の日本の食料自給率は4割にまでさがってしまったのです。

2.アメリカの食料戦略とアメリカ産牛肉
 アメリカでBSEが発生し輸入禁止になったとき、輸入再開をめぐってずいぶん騒がれました。外食産業で組織する恣本フードサービス協会は、とにかく輸入再開を希望するばかり。アメリカ牛肉の輸入禁止に伴い、外食・流通業はオーストラリア産牛肉にシフトして、「オーストラリア産牛肉は美味くない。アメリカ産の牛肉を早く再開してくれ」と訴えました。
 アメリカの肉牛はトウモロコシを食べさせます。夏場の暑い時期に成長するのがトウモロコシですから、地下水を使いながら栽培します。そうすると、カンサス州あたりでは地下水がもう半分以上無い、地域によっては7割、9割、100%無いエリアも出たりしています。つまり限りある地下水を使い果たしてでも今のお金に変えた方が良いという商売人の論理の方を優先させているのです。
 それでもやっぱりその状況に心配している人たちもいます。我々の子供たちの資源を使い果たしても良いものかということが議論され始めている。ある科学者によると、降雨量によって地下水を充足するには千年から二千年かかるといいます。それを使い果たしながら作物を作っているのです。
 アメリカも日本の牛肉輸入再開を望むなら、売る側の責任を交換条件として付けたら輸出を躊躇するかもしれません。地下水を使い果たしながら、持続性の無いエサに頼っているのがアメリカの畜産の現状ですから。しっかり供給責任を持たせれば、きっとアメリカ側の方が困るのじゃないかと思っています。
 オーストラリアの肉牛はムギを食べさせる割合が多いのですが、昨今の大変な旱魃により、ムギも7割程度の収穫量だといいます。オーストラリアもアメリカに次ぐ環境保護に不熱心な国ですから、今になって都市の水不足により断水政策を取りはじめ、ようやく地下水の問題が注目されるようになってきました。
 酪農家の施設にフリーストールがあります。以前、酪農家の奥さんたちと懇談したとき、フリーストールについて奥さんたちは「フリーストールにすると借金を返すのが大変。仕事も楽になったとは言えないし、旦那もなんだか忙しそうに走り回っているけど、旦那より私の方が余計に働いている」と話をしていました。そうすると、合理化もできず借金ばかり増えるフリーストールってなんだろうという疑問が湧きます。「フリーストールってどういう意味ですか?」と酪農家に聞いても誰も答えられない。アメリカのフリーストールは、砂漠地帯にたくさんあって、柵だけ設けて牛を一箇所に集めて、人間と同じモノを効率的に食べさせるのに都合が良いシステムと解釈できます。
 アメリカもかつては牧草で牛を育てていました。しかし食料戦略によって大量に食料を作り、輸出補助金まで出して輸出する政策をとったのです。そうすると相手国の農業は耐え切れなくなり滅びていきます。その結果ゆっくり商売できるという図式があるのだろうと思います。この食料戦略によって、あるとき穀物の過剰在庫が発生した。そうすると倉庫代、電気代などの経費が掛かります。それよりは牛に食べさせてステーキなど付加価値が上がる食料に変えた方が良いとの理由から、穀物を牛に食わせ始めたのです。人間が食べる穀物を牛が食べはじめた原因は、そのあたりにあるのだろうと思います。
 それを合理的にやるために、柵だけを設けてトラックで効率よく給餌する方法がフリーストールです。日本は自給飼料が少ないにもかかわらず、フリーストールという施設だけを導入したのです。だけどアメリカより雨も雪も多いので、建築基準法に則った高価な牛舎ばかりを大量に作った。そんな状況では、はじめから競争に勝てるわけがないのです。日本のフリーストールはコストが掛かっていますから牛をいっぱい詰め込まなければならない。そうすると不衛生になり抗生物質や薬剤も多量に使用するという図式になるのだろうと思います。フリーストールは余った穀物の対策で生まれた手法で、それと同じことを日本でやっても絶対不利なのです。それに加えてふん尿の公害問題も注目され始めているのが最近の状況です。

3.「ふゆみずたんぼ」の有用性
 外食業はこういった農業に頼っていて大丈夫なのだろうかという心配があります。コメもそうです。慣行農業のコメは窒素肥料とか農薬を大量に散布します。そうするとたんぼの中にいる虫がかなり死んでしまう。
 今、アレフでは「ふゆみずたんぼ」という取組みをしています。冬の間もたんぼに水を張っておくと、雪や氷の下ではイトミミズやバクテリアがたくさん繁殖してきます。そうすると、彼らは一日中活動しながら排泄物を撒く。考えてみれば、その排泄物は有機肥料なのです。そしてイトミミズやバクテリアをエサにしているヤゴとかオタマジャクシとかがたんぼに増えてくる。それらも有機肥料をいっぱい生産してくれていて、死んでも窒素肥料になるのです。「ふゆみずたんぼ」は生態系が豊富になりますからさまざまな昆虫も集まり、クモも増えてクモの巣を張ります。そのクモの巣はカメムシも捕えます。今の慣行農法はそのクモを滅ぼしておきながら、カメムシが増えたからといってカメムシ退治の農薬を撒くのです。カメムシを退治すると、今度はアブラムシが増えます。アブラムシの天敵はカメムシですから。そう考えると人間って上等じゃないんだなと思えてくるのです。
 「ふゆみずたんぼ」は生態系が豊かになり、水がきれいになり、窒素肥料や農薬もあまりやらなくなり、そして健康なコメを食べることができ、子供たちがたんぼの周囲で遊べる。私が子供の頃はたんぼ脇の用水路の水も循環されており、すごくきれいでした。たんぼは子供の遊び場であり、生態系を学ぶ教室だったのです。今のたんぼの水は、そこで子供たちを遊ばせても大丈夫かと心配してしまいます。農家も他人が使った水を使いたがらない。自分が使った水でさえ使いたがらないから、段差を付けて一方通行で水を垂れ流しています。「ふゆみずたんぼ」は、循環によって使う水の量が減り、生態系が豊富になる。このような農法もあるのです。
 生態系が豊富になると、様々な生態調査が熱心に行われます。そしてそれらは全国的なネットワークへと発展していきます。今、その生態調査を牧草地にも当てはめることができないかと思案しているところです。

4.食産業が「良い人を産み出す生業」であるために
 今の肉牛肥育は購入飼料を大量に使いながら、11kgから17kgの穀類を食べさせて1kgの牛肉を作っています。だからカロリー計算で自給率が悪くなるのは当然です。同じく牛肉を作るのであれば、やっぱり牧草で育てた方が良いと思います。牧草にはタンパク質が多く含まれているマメ科の植物もあります。それらは空気中の窒素を自分たちで固定化して効率よく使っています。そのような自然の原理を上手に活用しないで、アメリカのスタイルを単純に導入しただけでは、はじめから競争に負けるのは目に見えていますし、将来には結びついていきません。
 今、アメリカ人の6割が肥満だそうです。肥満が死亡の原因に深く関係しているとも聞きます。そして子供は大人の3倍の勢いで肥満になっています。今では肥満を解消するための予算が国連の飢餓基金よりはるかに多いという不可解な状態になっているのです。今のそういった社会が健全なのかということが問われているのだろうと思います。
 私が若い頃、「食」の業界に入るきっかけになるひとつに、先輩たちから「食という字は人を良くすると書く」と教わりました。食産業と書いて、「良い人を産み出す生業」と読む。そう考えると、食品メーカーも含めて食産業は、「良い人を産み出す生業」とか、「良いものを産み出すものでなければ職業とは言えない」ということになります。
 しかし日本の現状をみると、金額換算で世界一の農薬使用国と言われています。有機作物を認証する団体は、有機作物はわずか1%しかないと言い、世界で一番農薬漬けの作物が食卓に並んでいるのが現状だと思います。
 だから国民の11%が糖尿病、13%がアトピー、7人中6人が何かしらの異常を訴え、若い男性の25%はダイオキシンが原因と思われる精子の変形・奇形現象が確認されるといいます。そして20代前半の女性の24%は栄養失調、7割以上がカルシウム不足と、そんな惨たんたる有り様です。
 そういった状況のなかでチェーンストアは、売っている食品の安全性よりも価格、利便性、サービスなど競争原理ばかり追求している。本来は全部逆じゃないですか。今の状態では、売れば売るほど健康や環境を壊して成り立っていると思われることが多いのです。
 もはや経済だけでコスト計算をすれば良いという状況ではありません。やはり環境問題や社会問題などの取組みを含めたコストというものもあるはずです。自動車産業であれば、自社が作り出したクルマから出るCO2の削減に努めるとか、家電業界も自分たちが販売した製品によって環境破壊されないように配慮するとか。我々の「びっくりドンキー」もそうです。店舗1軒作ると何立米(りゅうべい)もの木材を使うわけですから、その量を少なくできればそれだけ森が残りCO2を削減してくれているわけです。それらの取組みも前提にしたコスト計算をする時代が21世紀だろうと思うのです。しかし今の世の中の趨勢は自分たちの活動に何も責任をとらないで、ただ社会に負荷しているだけなのです。
 では外食業や流通業はかなり発展してきたが、農業はどうなのか。今の農業は外食産業の発展とは逆の状態ではないでしょうか。これから先、農業は本当に良くなるのかを考えることが大事なのではないかと思いますし、そのためにはかなり手をかけなければなりません。
 日本の生産技術のなかで世界中から評価されている技術があります。それはトヨタさんの「ジャストインタイム生産システム」とか「カンバン方式」と言われる技術です。今、インドがものすごい勢いでこれを取り入れ始めています。だからインドではすばらしい企業がいっぱい育っている。それらがやがてライバルになるだろうと思います。そうすると農作物はアメリカからの輸入が一番多いわけです。アメリカから仕入れる農作物に、なぜこの技術を取り入れないのかという疑問があります。

5.事業と社会貢献のつながりについて
 仕事のなかには生業、家業、事業があるといいます。生業は生きるための業(なりわい)です。創業時など、仕事の枠が小さいときは自分が生きるために一生懸命ですが、やがて成長してくると家族を養い繁栄させるため、家族と共に働く家業に発展していく。そしてそれ以上大きくなると社員を雇った組織(=事業)になるのです。事業を展開するにあたり、優秀な人材が欲しいと思っても、その家族を繁栄させるためだけ、つまり家業のためだけに最高学府の人材が集まるわけがありません。そこで事業はどれだけ社会に貢献できるかが問われてくるのです。
 生業から家業へ、家業から事業へ。今の大企業をみると図体だけは事業です。しかし、その精神は生業、つまり自分のことばかり考えているように思えます。組織としては大きくなったけれども、自分のことしか考えていない。そういった状況が今の社会状況なのだろうと思います。

6.21世紀のパラダイムとは
 そのような社会状況において環境の問題をみてみますと、環境と農業はものすごく関係が深いのです。
 ガイアという言葉を世の中に広めたラブロックという博士がいます。博士は、「エネルギー政策はもう手遅れだ」と言っています。そしてアレフでも懇意にさせてもらい、色々と学ばせてもらっているアービン・ラズロという総合真理論の博士も、「このまま10年行ったら後戻りできない状態にたどり着いてしまうだろう」と断言しています。世界の知恵といわれている人たちは、環境問題はもう猶予がないといっており、そういった状況に自分たちは置かれているわけなのです。そういったなかで、まったく環境問題に取組まないというのは、20世紀のパラダイムのままということになります。今は20世紀の延長による成長・発展ではなく、21世紀的な進化が求められているのです。
 20世紀の文化はアメリカの影響が大きいわけです。チェーンストアも一生懸命アメリカを手本に勉強してきました。当初はアメリカンスタイルをいち早く日本に持ってくることが希少価値だったのですが、今では、有り余るほどのアメリカ的な価値観が蔓延しています。ですから、今の時代はアメリカ一辺倒とは正反対の方が良いという考え方になりました。以前はアレフもアメリカから購入する原材料が多かったのですが、今は他の国々を調べながら、アメリカからの購入を全部中止したところです。本当は日本の国内という小さい単位で循環できる仕組みの方が良いと思っています。
 店は客のためにあるという理念があります。客のためということはお客さんだけではなく自分のためでもあります。「情けは人のためならず」と言う言葉がありますが、情けをかけるということは相手のことばかりじゃなくて、自分にも結果として降りかかって来るんだよってことを意味している。同じように農業は食べる人のためにあるという考えも成り立ってくる。つまり双方向ですよね。お客さんのためということは自分のためでもある。
 外食業、流通業なども事業と同時に環境とか、農業とか、次代を担う子供たちが育つための教育とか、なんか1つそういったものを取り入れながら、トライアングルのテーマを持ちながらやっていくくらいでないと、21世紀は難しい時代じゃないかなという気がしています。
 そういう考えで見てみますと、流通業や外食業は発展を続け上場企業も多く出ているのに、なぜ農業がこんなに疲弊しているのか。しかも食料自給率が4割しかないという情けない状況です。なぜ一致団結しないのかなということなのです。

7.ヨーロッパの農業戦略から学ぶこと
 そこには消費者からの観点が大切で、しっかりとした生産と消費のバランスを考える必要があると思うのです。なにしろ生産が崩れ、食料を提供できなければ消費に混乱を来たすのですから。
 その状況においてヨーロッパを見てみると、AOC(フランス)やDOC(イタリア、スペイン)という「原産地呼称制度」を確立させています。日本はJAS規格がありますが、JAS規格は最低保証だと私は思っています。しかしAOCやDOCはものすごい戦略だと思っています。
 つまりこれからはヨーロッパ的な価値観を参考にした方が良いと思います。実に戦略が上手です。日本もヨーロッパのように難しい基準、自国に合った価値観の基準を先に作り、そのルールに則って取引をしたら良いのに、アメリカ的な発想をもとに、相手国側の要件を取り入れたルールを作るから当然自国が不利になるのです。
 日本にとって有利な基準を作り、それを認めさせることをしなければ損です。そうすると食料輸出国はやりづらくなってくるんじゃないでしょうか。しかも消費者は安心します。すごいことにイタリアでは、小さい飲食店にまでその基準を当てはめ、浸透させているのです。
 一見農業者にとって基準を作るということはハードルが高いように思えますが、それが競争に対する障壁になるのです。日本や東南アジアを見た場合、まだそういったものを用意していないです。ただ農作物を作るだけではなく、いろんな要素を加えてながら基準を作り、それを自分たちの価値基準にする努力が必要じゃないかと思います。その風土に根ざした環境を守るというのも良いです。
 以前、アルザス(ドイツ国境付近にあるフランスの地名)の人とアルザスワインを飲んだとき、私は「このワインはドイツワインに似ていますね」と言いました。すると「いや違う。これはアルザスの太陽、アルザスの風、アルザスの土、水、そして代々アルザス地方に伝わる技術を生かして作っているからこそ、AOCという称号を与えられたのだ」と言われました。ということはアルザス以外の人がこれをやるのは大変なわけです。
 この手法を取り入れるなら、北海道だったらタンチョウを保護するとか、渡り鳥を守るとか、そういった独自の活動を加えた農作物だってあったっていいんじゃないかと思います。
 ちなみに仙台近郊に蕪栗沼(かぶくりぬま)では、「ふゆみずたんぼ」を作ったことによって、雁がいっぱい集まるようになりました。その近くには伊豆沼という雁がたくさん来る沼があったのですが、そっちよりもその水田の方に雁が来るようになり、ラムサール条約に登録できたのです。自然保護、湿地保護を進める国際的な団体がその活動を認めたのです。そして「ふゆみずたんぼ」は韓国や中国にも広まりはじめました。今では環境保護団体も交えて、一緒のフォーラムを開いたりするレベルにまでなっているのです。
 日本は環境保護というと「高いものにつく…」と考え、企業は本業だけに専念して金儲けだけを一生懸命考える。そして環境のことを言うと「余裕がなきゃできない」って言うのですね。だけど目先の利益だけではなく、将来に向けた活動を一生懸命やることも大切だと思うのです。

8.アレフが取組んでいること
 今、アレフでは恵庭市で自分たちの思いがいっぱい詰まったエリアを作ろうと色々取組んでいます。ふゆみずたんぼ、無農薬作物、店舗から出てきた使用済みの割箸も全部集めて炭や竹酢酢を作ったりなんかしています。
 そして札幌から恵庭に一次加工場を移して来たのですが、その一次加工場のエネルギー対策として、千歳の酪農家とタイアップして牧場のふん尿からバイオガスを作って、一次加工場で出た残渣や生ゴミと一緒にメタンガス(95%濃度)にしてしまう。それを圧縮して一次加工場で使用するのです。また同時に地熱の利用も進めています。地下10mより下になると温度は10から15度と一定ですから、そこに暖かい水を通せば冷たい水になって出てくるし、冷たい水は温かくなって出てくる。それを熱交換して60〜70度のお湯にしようというものです。一次加工場では大量の水を使用しますから、低い温度から温度を上げるよりもすごい節約になるのです。そしてソーラー発電も取り入れ、いろんな取組みをあわせると1日に1,100Lの化石燃料の節約になり、55%のCO2の削減になるというシステムなのです。
 このように近隣に酪農家があると、メタンガスを作ってエネルギーに利用できるのです。そしてエネルギーを取った後にも液肥という栄養源が残るのです。しかし現状は、それらを全部捨てています。汚水処理場もそうです。エネルギーをすべて捨てている。もったいないです。酪農は厳しいといわれていますが、自分のところにあるはずのエネルギーを、お金を出して買っている状況なのです。そのような資源を外食業や食品メーカーと一緒に小さな単位で上手に循環させるべきです。
 この考えからするとチェーンストアというのは店舗数が多いですから、農業にとってはあんまり良くないのじゃないでしょうか。大体にして規模が大きくなるとエネルギーの使用量も多くなりますから、大抵の生産地じゃ間に合わなくなります。
 今、各地域の市町村は大企業や流通業の誘致に熱心に取組んでいますが、その誘致に成功しても地域から売上を稼いで、すべて都会に持っていってしまう。そして地元の物をさっぱり使わないという状況です。企業誘致なんかで喜んでないで、むしろ敵だと思った方が良いかもしれません。
 流通業が行っているショッピングセンターというのは、40km離れたところからお客さんが来て買い物をするシステムです。頻繁に来られないから一回来たら、大量に買い物を済ませなきゃならない。これをワンストップショッピングと言います。1週間分くらい買いだめしなきゃならならないので、家庭の冷蔵庫が大きくなるのです。あれは全部無駄です。その都度、ちょこちょこ買えたら、そんなのいらないわけです。そうするとエネルギーも食わない。昔の日本は、そういった使い勝手のいい小さい商店がいっぱいあったんです。しかし、これもアメリカの圧力でしょうか。大店法ができて、店舗がどんどん大きくなっている。今こそ小さい商店を大切にして元気を出していくと、小さな農家にも好影響になると思うのですが…。

9.日本独自の輸入障壁を考える
 こういった考え方、そして戦略は対アメリカとか対カナダを前提としたヨーロッパ的な仕組みです。しかし、同時にヨーロッパ対策も必要で、ヨーロッパにはない自分たちの良さを組み入れた基準を作らなければいけません。
 今、ヨーロッパでは動物福祉が注目されています。日本の畜産農家が聞いたらびっくりするようなことを法律化しようと頑張って準備している最中です。日本がこのまま準備しないでいると、ヨーロッパには法律が出来て、その基準をぶつけてくることでしょう。そうすると環境ブランドみたいなものをもっと大事にしていけばいいんじゃないかと思うのです。海外には生存していない動物がいたらしめたものじゃないですか。タンチョウを守りながらやっているのだとか。仙台の蕪栗沼(かぶくりぬま)はマガンを守りながらやっているから、ラムサールに登録されているのです。そういった目の付け所ってずいぶんあるじゃないかなと思います。
 ネパールのたんぼは、棚田で機械なんか入らないようなところです。すごい傾斜地にあって、小さく変形している棚田。そして雑草がいっぱい生えています。しかしネパールにとってはこの雑草が大切なのです。牛のエサになるし、あまった雑草は全部土の栄養にするのです。それは自然の生態系のありままを生かした農業なんですね。全てをそんな農業にするのは難しいかもしれないけれど、その方が良い場合もたくさんある。しかし、小さい農業が次々となくなっているのが現状じゃないかなと思います。
 日本の場合、はじめから大きさで競争しようとしているところから負けているのではないでしょうか。戦略からして負けている。日本で大規模といっても、アメリカの規模からすれば零細です。そしてもともとは自立して成り立っていないから、補助金が増えるくらいが関の山。こんなやり方じゃしょうがない。こんな状況だから、子供たちも農業に入ってこないのだろうと思います。子供たちが農業に夢を抱けるかが重要だと思うのです。
 実際、農業には子供たちが夢を見たり勉強する素材がいっぱい詰まっています。今、アレフでは恵庭で菜の花プロジェクトというのをやっています。小学生も交えて菜の花をみんなで植えて、それが実ったらアレフの工場にもってきて油を搾るのです。そして「搾った油はこうなるんだよ」ってトラクタに入れて動かすと、「あっ、動いた!」って小学生が喜ぶのです。そして校長先生もテレビで「あの子たちはそのことを実際に見ているから、これから先もずっと覚えていると思います」って、すごく誇らしく言ってくれました。そういった実際の場面、勉強のための勉強じゃなくて実際の場面も交えた勉強の機会も持っているのが農業だろうと思います。

10.企業の存在根拠とは何か
 商業界においても、売上規模だとか規模拡大ばかりを追求するのではなく、何か1つ、21世紀に向けた「これはすばらしい」という取組みをするための語り合いができる状況が必要だろうと思います。
 そしてもう1つ、企業の存在根拠とは何かという問題があります。今、企業が取組んでいる仕事は全て手段に過ぎません。社会のなかに企業が存在し、企業のなかに事業があることを考えると、社会の不足・不満などの問題を解決したり補ったりすることが企業の存在根拠になるのです。そうすると、それぞれの事業体が社会に対してどんな問題を解決するために存在しているのかを考えなければいけません。そのような根拠があるかないかが現状に現れているのだと思います。もし現状の結果が良くないのであれば、企業の存在根拠が希薄だという気がするのです。そして我々チェーンストアの一番の役割、存在根拠は原材料の調達から消費が終わるまで、消費者の健康の責任を取るということだと思うのです。
 今、アレフには7か所の一次加工場があります。その一次加工場と店舗数の最適のバランス、そして店舗と一次加工場そして農地の最適バランスをシュミレーションして計画を立てることが大事な役割であって、今年はこれを仕上げようと思っています。これがマーチャンダイジングという考え方なのです。ところが今のチェーンストアは残念ながらマーチャンダイジングを全然やっていません。どこもやっていない。ただ大量仕入れをしただけです。だから世界中からどんな作り方をされたかわからない食品を買い漁っただけで終わって、そして日本の農業を滅ぼし尽くしてきたのじゃないですかね。このやり方を変えない限り日本の農業は良くならない。

11.豊かさの基準を見直す
 日本は農業だけが保護産業じゃなく、大企業までが保護産業の上で成り立ってきたということだと思います。
 そうすると、すべての20世紀のパラダイムを全部入れ替えていかなきゃならないのが今の世界の状況なのだろうと思います。急成長を続ける中国はアメリカ並の生活を望むようになり、アメリカンドリームを追いかける。2030年には人口が14億5千万人になるという見込みです。そうなれば世界の穀類を7割増産しなければならない。紙は2倍、石油は倍以上の増産ですね。そんなことはありえない話です。ということは20世紀的な成長を遂げるためには、地球を4つも5つも作ることを前提でやらなければ傍迷惑なのです。20世紀的な成長で伸びれば伸びるほど地球は変則状況になる。
 そういった状況のなかで南北問題なんていわれます。南は貧乏人の子だくさん、人口を増やしてしょうがないといわれています。しかしバングラデシュとアメリカを比べた場合、アメリカは40倍から70倍の資源を使っているのです。そうするとバングラデシュの人口が多くて自分の食料が作れないという問題よりも、アメリカが必要以上の食料を作り込んでいる方が世界の食料危機という問題からすれば大問題なのです。このような計算の仕方をするとアメリカの人口は100億人を超えるそうです。
 そうすると南北問題なんていうのは文明国だけの理屈、モノサシだということがわかります。国民1人当たりの総生産とかそういったものでも、単なる政治家の詭弁に使われる道具じゃないかとも思えるのです。
 今の日本は経済大国というけれど、私は不経済大国日本とだと思っている。80兆円の支出に対して40兆円の収入しかない。毎年収入分の借金がたまっていくというのに、どうして経済大国といえるのだろう。アメリカもそうですね。支出の4割しか収入がないのですから。そういった国が本当に良い国なのか、アメリカ的な価値観や社会構造のまま進んだら大変じゃないですか。そういった価値観だけでみるべきじゃないと思うのです。豊かさの基準もお金だけをモノサシにするのではなく、失業率や貧富の格差、そういったものまで全部入れた基準を作らないと実態に合わないものになってしまうと思うのです。
 そういったことを考えると、これから農業はやっぱり自給率を高めないと本当に安心できないと思うのです。実際に自給率を高める動きをしているのか。そのために農協であれば商品開発力や、再生産が可能な農作物の買取りも必要だと思います。雪印さんも大きい企業なのですから、農家のために何を解決してくれるのかが問われているのだと思います。外食業の私たちアレフも、地元の農作物の使用を前提にした商品開発を積極的にやるんだと取組んでいるところです。輸入物のオレンジジュースなんかは恵庭近くの自社店舗での取り扱いを無くそうとはじめています。そういったやり方のほうが、かえってライバル店と差がつくのですね。今後はそういったやり方で全部やっていこうとしています。
 環境対策についても、「余裕ができてから環境対策も…」ではなく、環境対策をやると逆に余裕が出来るのです。また環境対策は企業活動の先取りと思われていますが、環境対策はすでに遅すぎるのです。今まで環境にものすごく迷惑をかけまくってしまっているのですから。
 それを今からでも、1つでも補っていかなければいけない。逆にいえば、そのことが戦略にも使えてくる時代じゃないかなと思うのです。今はまだ他がやっていないことですから。それが差なのですね。だから環境ブランドに是非取組むべきなのです。こういった環境にも良いことをやっているということを商品価値に入れながら、やっていくことが企業戦略の1つなのです。

12.ネイティブな心から学ぶこと
 ここでモンゴルの奥地で映画を撮影した監督との会話に出てきた話をしたいと思います。
 2家族しか住んでいない奥の村で映画を撮影していたところ、夜中、小さな女の子がパオというテントの外に出て、ずっと寝ないで星空を何日も見ていたので、その少女に「どうしたの?」と尋ねると、「弟が病気で死んでしまって、悲しくて眠れないの。だからお星さまをみているの」と言ったそうです。やがて撮影が終わって、日本に帰る間際になったら、その女の子が駆け寄ってきて、「私決めたの。私、お医者さんになる」と話し掛けてきたそうです。その監督はその話を聞いてはっとしたそうです。
 きっと日本などの文明国で子供に将来何になるかと聞いたら、宇宙飛行士とはパイロットとか、自分を基準に物事をしゃべる。子供だからそれ自体は悪いとはいえないけれども、少なくとも貧しいモンゴルで、学校も病院もない場所に住む子供が、弟とはいえ自分以外のことですよね、それに触発されてお医者さんになると言っているのですね。その話から日本の大学生の実態を思い浮かべました。小学は自分を修める、大学は人を修めるといいます。しかし、日本の大学を卒業した人たちは、人を修めるんじゃなくて自分がいかに食っていくかということばかりを学んで卒業してくるように思うのです。社会には将来に向けた様々な問題や課題があることを知り、それをどうやって解決に結びつけるかというのも大学の授業だと思うのです。そういった将来のことを解決することを何1つ学ばないで、売上を伸ばすとか、規模拡大するとかばかりを学んでくる。商業界でも、もみ手をして、嘘八百並べて、店主の真似をして、お客さんになんとか売りつけようとしている、もう悪しき商人像に染まっている。それでは20代の若い命がもったいないという思いがあります。そういった商売の仕方ではだめだ、そしてやっぱり自分自身の意思とか、自分以外の視点を持つということが大事だと思うのです。これらは社会人、大人の姿勢の問題ですね。
 最後にアイヌ人のイガフデさんという詩人の話をします。その詩人が、現在の釧路市にある春採湖という湖を見て詩を歌っています。

春採湖が 綺麗な青い目で 綺麗な青い空をみている
春採湖が 綺麗な青い目で 私をみている

 という詩です。

 人間が自然を見て綺麗だという詩はあるけど、自然から人間を見るような詩はあまりみません。ネイティブな人たちはそんな感覚をもっているのだなと思います。ネイティブな考え方はすごく参考になります。
 こうした考え方をもとに、自分で感じたこと、発見したことをもとに意思決定できる力、そういったものの根底をなすのが文化じゃないかなと思います。日本の文化、北海道の文化、事業体としての文化、自分自身の文化、こういいものがしっかりしていると自分発のものがちゃんと作れるのだろうと思います。
 つまり文化とか思想をしっかり持っていなければ経済活動だけで汲々とし、いつの間にか経済のための経済になってしまう。これが今問われているわけなのです。経済学者についても市民運動、環境活動、社会問題なども含めた経営感覚を唱える経済学者でなければ、用が足りない時代になりつつあります。そのように視点を変え、専門家もゼネラルな指向性を考え、そういった指向性の変化がすごく大事なのです。これらのことはみんなわかったつもりだったのですが、本当は全然わかっていなかったのです。

13.日本発の発想を生かす時代へ
 今の時代を迎え、やらなければならないことは大人が全てやり尽くしてしまい、次世代を担う子供たちは気の毒だと思っていました。それが10年ほど前のことです。ところが今に至ってみると、それまで良いと思ってやってきたことが全部ダメなのではないかと思いはじめました。今まで向かってきた方向が逆で、「ストップ、回れ右」と言われれば最後尾になるような状態です。そうすると今の時代は、これから先に向けてやらなければならないことがたくさんある時代だということになります。つまり、国に多様性があって、能力ある人材がいれば、ものすごいチャンスを秘めた時代を迎えていると思うのです。
 そういった考えから商品開発すれば、まだまだチャンスはいっぱいあるでしょう。海外で作っている物を輸入するということは、自国の中にそれを取り入れることができるということです。そして、日本にはそれを可能にする最高の技術、日本が産み出した技術があるのです。以前はアメリカ発の技術が主流でしたが、日本発の技術で、自分たちの中にある良いものを生かしていくということがすごく大切なのだと思います。
 今日お集まりの皆さんは、全員、食産業に身を置く立場の方々だと思います。食産業は単にお金を作り出す作業をやっているわけではなく、人を良くする生業、良い人を産み出す生業という共通項を持っています。
 食産業のもととなる農業も、各国で自分の国の農業はしっかり守りたいと思っているところに、大量に作って輸出しようという考え方自体が問題ですし、輸出入によって利害関係は必ず出てきます。環境対策からみても問題です。そうではなく、小さい単位で循環するシステムを作ることが21世紀的な課題じゃないかなと思います。
 事業をやっている限りにおいては、こういったのを根底に置いて取組めば、世の中よくなるのじゃないかなという気がします。


第1講演 「牛乳・乳製品フードシステムの閉塞性を打開するには」 東京大学大学院 教授 鈴木 宣弘
第2講演 「国際市場動向とチーズ国産化の可能性」 チェスコ株式会社 代表取締役社長 大塚 義幸