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時の話題

No.3 酪総研創立30周年記念シンポジウム「日本酪農の基盤を考える」(要旨) 第2報告「酪農産業における人材確保の課題」 浜中町農業協同組合 代表理事組合長 石橋 榮紀

1.農協の社会的責任
 酪農産業における人材確保の課題について、我々が取り組んできた過程を申し上げながら、これからの進め方について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
 酪農しかできない地域で酪農が衰退すると、学校や病院などの社会的公共施設が無くなり、地域コミュニティが成り立たなくなる恐れがあります。もちろん酪農家戸数や生乳生産量が減少し、耕作放棄地が増加すれば、農協すら存立し得なくなるのです。最近CSRという言葉を耳にします。これは企業の社会的責任ということですが、私は農協の存在が地域の社会的責任だと思っています。特に純農村では農協が地域の農業や地域産業を支え、人的資源を維持することで地域コミュニティが確保できるのです。

2.地域における後継者不足と担い手確保
 今から18年前、私が専務のときから北海道農協大会などでは担い手確保の問題が取り上げられていましたが、具体的なプログラムを示すには至りませんでした。当時から農協職員の養成には熱心でしたが、農業者を育てるのは地域や農協が考えることだという認識があったのでしょう。もちろん農家養成の学校はたくさんあります。しかし、そこで養成された人が、農業後継者としてすぐに就農できるのか、私ははなはだ疑問を感じていました。
 すでにその当時、わが町の後継者不在の農家は34戸、将来的に後継者不在になるであろう農家はおよそ100戸あり、地域の25%が後継者不在やその恐れがある農家でした。ですから酪農を守るためには外から人材を呼び込むしかないと考え、昭和58年から北海道農業開発公社の新規就農事業を使って新規参入させることにしました。そのため、50haの土地と40頭の乳牛を仕立てて、他の地域で実習している6組の就農希望者を呼び込みました。しかし6組目の希望者は、その町ですでに新規参入していた人だったので、私は当時の組合長に烈火のごとく怒られました。

3.研修牧場建設の経緯
 そこで私は、自分の地域で新規入植者を育てようと平成3年に研修牧場を建設したのです。しかし、研修牧場には反対意見が多く、行政との調整が約1年半続きました。組合内部の反対もあり、総会の場で時間をかけながら理解を求めました。酪農家がどんどん減っていくのがわかっていましたから、絶対成功させる想いでがんばったのです。
 もちろん農家で研修させる方法もありますが、その場合はまず農家自身の研修をしなくてはならない。またその農家が人を育てる力を持っているか見極めるところから始めなくてはならなりません。しかも研修生が一人前の酪農家になりえる資質や能力があるかを見分ける力も必要になります。ですから研修牧場にこだわったのです。
 また、新規参入希望者は独身者では都合が悪い。後継者にも独身者が多く、花嫁対策を一生懸命やっているなかで、そこにまた独身が増えたら大変です。田舎に来て嫁さんをもらうことは難しいですから研修生を受け入れる条件は、妻帯者もしくはいずれ結婚する相手がいることでした。そうなると社会人が対象になります。社会人が農家で生活の面倒をみてもらいながら、技術やノウハウも教わるのはとても無理です。ですから浜中町が持っているすべての知識を集中的に教え込むために研修牧場が必要と考えたのです。

4.新規参入者が地域に与える効果
 現在、わが町の新規参入者は21戸、もう町の酪農家の1割を超えました。新規参入を目指す人たちは"田舎生活がしたい"という共通項を持ち、田舎生活を楽しむ術を知っています。最初、研修牧場の完成前に入植した6組の新規参入者のほとんどがアウトドアライフ派でした。カヌー、バードウォッチングなど地域ではあまり馴染みがないことを、彼らは仲間を募り、小中学生を巻き込みながら始めたのです。浜中町は様々な珍しい鳥がいることを知ると、子供たちは生き生きしてきて、地域の良さに目覚めていきます。それを新規参入者たちが教えてくれたのです。またレストランやチーズ作りを始めたり、バンド活動するなど、楽しみながら地域を活性化に導いたのです。そんな楽しそうな生活を、牧場を継ぐか迷っていた後継者たちが見て、次第に酪農に興味を持っていったのです。
 平成12年の農業センサスで農業後継者割合をみると、釧路支庁平均の21%に対して浜中町は28%です。次に、平成元年をベースに平成15年の酪農家の残存率をみると浜中町は82%、釧路支庁平均は65%です。これだけ数字に差があるのは、新規参入者を入植させたこともありますが、それを見ながら就農を迷っていた若い後継者たちが牧場を継承したからなのです。それは研修牧場が大きな役割を担ったのではないかと思っています。

5.酪農家の資質と負債問題
 国際化や減産計画などいろいろな問題を抱えたなかで、酪農を続ける能力を持った人を参入させられるかどうかが要になります。研修牧場には今まで22組の研修生が来ましたが、酪農が合わないという理由から辞めてもらった人もいます。もちろん仕事を辞めて研修しているのですから、単に辞めてもらうだけではいけません。「私はどうしても北海道に住みたい」という人には帯広の就職先や道北の森林組合を紹介しました。浜中町に住みながら職に就いた人もいます。酪農は不向きでも、他の仕事は勤まる人がたくさんいます。そうやって研修生を見極めないと、いずれお荷物扱いになってしまうのです。
 そして負債対策ですが、経営不振の酪農家にいくら金をつぎ込んでも、本人が変わらなければ経営は良くなりません。あるいは経営者を入れ替えるしかないのです。私は負債対策の金は一切使っていません。それよりもっと前向きな金の使い方があると思います。負債農家には率直に離農を勧めることもあり、6戸が離農していきました。しかし、他にもいろんな仕事があるのです。職を紹介すると彼らはまじめに働き、借金もしないでしっかり生活しています。負債対策のような延命策を取るより、若く借金が増えないうちに酪農を辞めてもらい、その代わりに新しい血液を入れていく方が地域はどんどん元気がでます。農協も後ろ向きの仕事をしないで済みます。農協の営農指導は経営不振農家の対策のためではなく、経営をより良くするためにあるのです。新しい血液をしっかり育てることにお金と支援と情熱を注ぐ方が効果的です。そのためには乗り越えなければならない軋轢もありますが、これを越えなければ地域の農村は成り立っていかないと思います。

6.人材選抜
 人材育成については家業的な後継者にも一定レベルの教育をする必要があると思います。もちろん新規参入者もそのような教育やマネージメント能力を身に付けなければなりませんが、私は何よりも"センス"が必要だと思います。牛が好きだということも大切です。それから、早起きできない人は成功しません。これらは牛が好きならできるのです。牛と共に生きるという考えを持っている人は心配いりません。それを私はセンスと呼んでいるのですが、そのようなセンスを持った人材を見つけなくてはならないと思っています。また家族経営であっても経営者ですから、決断力がなければなりません。経営を左右する事態において自分で決断できる能力が必要です。

7.牧場継承についての考え方
 親から経営を引き継ぐ後継者の資質・能力を見抜き、どうやって高めるかという問題もあります。ヨーロッパでは、農家といえども一定の研修により一定の能力があると認められなければ融資が受けられません。血族だから無条件で後継できることはなく、条件に合わないときは他人に農場を委譲するのも当たり前です。わが町も新規参入者を入れて20数年が経ちました。そうなると酪農家は、もし息子に望みがないなら研修牧場の研修生に牧場を売ったほうが良いという認識になりつつありますし、現実に思っています。その現実に寂しさも感じます。せっかく祖父や親の時代から続いてきた経営が他人に渡るとすれば、息子自身のプライドも傷付くでしょう。そうなれば、彼らにしっかりとした力を付けさせる必要があります。自立した農業者という意識を持つことが必要です。わが町の酪農家の約60%に後継者がいますが、その後継者をしっかり育てることも農協の仕事だと思います。
 そのなかで新しい取組みを始めました。日本版シェアミルカとでも言いましょうか、一定の研修期間を終えた研修生に1つの牧場をすべて任せます。そこで実際に搾乳からマネージメントまで行ってもらい、一定の成果を収めることができたらその牧場を譲り受けてもいいし、他の牧場に移っても良いというシステムを昨年から始め、今年は第二段に取り掛かろうとしています。このシステムは後継者も対象にしたいと考えています。そこでOKなら正式に牧場を継いで、自分が目指す農場を作っても遅くは無いと考えています。

8.地域総合交流協定の締結
 それからもう1つ新しい取組みを始めました。酪農学園大学との地域総合交流協定です。この協定は3年生の1年間、地域の酪農家に入り研修する制度です。そして、卒業したらすぐに農業に"就職"できる力を付けた学生を育てるのです。通常、学生は卒業後すぐに就職して稼ぎますから、農業の世界もそうあって良いでしょう。これも提唱し始めて3年ほどかかりました。研修牧場同様に様々な意見があったためです。そのため大学とはカリキュラム設定を、文部省をはじめ各部署とは調整を何度も重ねながら、ようやく出来上がったのです。
 これは平成17年度からの取組みで、わが町には3人の研修生が入っています。朝・晩の仕事をしながら、その他はパソコンで大学から与えられる課題をもとに勉強するシステムです。そして2か月に一度、大学の先生が訪れて出前授業をするのですが、たった3人のために大学の先生が来るのはもったいない話で、わが町の後継者も授業を受けさせてもらっています。これも牧場継承のための1つの手段だと思っています。
 大学3年生時に現地に行って1年間の酪農研修をする、これは一種のインターンシップ制度だと思います。このような実学・座学をセットにして、卒業と同時に即戦力として就職したり、即戦力の酪農後継者を確保することが大事だと考えます。そのようなシステムを他の農業系の大学や学校でも、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

9.最後に
 農業の持続可能な仕組みを作るには、地域が協力し合わなければいけません。酪農後継者や人材確保はどうしたらよいか、これは国の政策や系統農協にも求める必要があるかもしれません。しかし、町や農協、酪農家が一緒に協力しながら仕組みを作り、人を育てなければ、なかなか人材確保は難しいと思います。もちろん、親から牧場を継ぐ後継者も含めてシステムを作るということが必要でしょう。皆さんの地域でも、皆さんの地域に合ったやり方を考えていただきたい。それが一番重要なことだと思っております。

基調講演「深まる国際化と近未来の日本酪農」 東京大学大学院 教授 生源寺 眞一

第1報告「価値競争に対応した生乳の生産・流通」 社団法人中央酪農会議 事務局長 前田 浩史

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