今年(2007年)10月、日本酪農青年研究連盟(神奈川県、長谷川行夫委員長)が主催する第31回海外酪農研修がありました。今回の海外酪農研修は、アメリカ合衆国ウィスコンシン州マディソンで開催される「World Dairy EXPO 2007」の視察が最大の目的です。
今回、私もこの海外酪農研修に参加させていただき、「World Dairy EXPO 2007」の雰囲気に触れてまいりました。つきましては、その体験から酪農イベントのあり方について少し考えてみたいと思います。

World Dairy EXPOは、ウィスコンシン州マディソンにて毎年開催される世界最大規模の酪農産業のイベントです。5日間の日程で開催されるEXPOは、約2,000頭が参加する【乳牛共進会(ブリードショウ)】、100頭以上が売買され2007年の総売上額は約$1,290,000(=約1億5千万円($1=118円換算))にも達した【乳牛セリ市(セール)】、20か国以上・約700社が出展する酪農機器の【見本市(トレードショウ)】、その他にも酪農教育セミナー、バーチャル農場ツアーなどが企画されるイベントで、毎年、世界各国から6万5千人を超える入場者(図1)を集める規模を誇ります。
| (単位:人、か国) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

一方、わが国における最大の酪農のイベントといえば、"全共"こと、全日本ホルスタイン共進会を挙げる人も多いことでしょう。
全日本ホルスタイン共進会は、昭和26年に神奈川県で第1回大会が開催されて以来、5年に一度、酪農が盛んな地域において開催される共進会です。第1回大会から約10万人の入場者を集め、平成7年に千葉で開催された第10回大会には過去最高の約84万人、第11回岡山大会(平成12年)では約66万人、そして直近の第12回栃木大会(平成17年)でも約69万人の入場者を記録しています。このように双方の入場者数を比べると、全共の方がWorld Dairy EXPOよりも勝っていることがわかります。

しかし、World Dairy EXPOは$7(=約830円($1=118円換算))の入場料が必要です。これはWorld Dairy EXPOに限らず、ヨーロッパ各地で開催される共進会も入場料を支払うのが当たり前と聞きますから、一般市民も酪農のイベントを見るのにお金を払う価値があると判断していることが窺えます。
これに対して日本の酪農イベントで入場料を徴収するのはほとんど無く、全共ですら例外ではありません。これについては、「共進会は村祭りや収穫祭と同様で入場料を徴収するような意味合いのものではない」という考えや、「EXPOはあくまでもショウ(見せ物)であり、見たいならお金を払うべき」など、いろいろな考え方があるでしょう。
しかし、その企画に価値を感じるから入場料を払うと考えれば、入場料は価値を計るバロメーターにもなりえるという考えも成り立ちます。ちなみに2007年のWorld Dairy EXPOの入場者数は約67,000人ですから、約$469,000(=約5,500万円(同換算))もの運営費が入場者によって負担されたことになります。

World Dairy EXPOの会場内を歩いてみると、あきらかに一般市民だと思われる家族が、小さい子供やベビーカーを引きながら歩いている姿をよく見かけます。その幼い子供たちのお目当てはトラクタやコーンハーベスタなどの大型機械。駅で電車を見入るように、工事現場で工事用大型車両を見入るように、子供たちの目は大きな農業機械に釘付けです。また、主婦など女性に人気なのは乳製品の展示販売です。試食用のチーズを口に運んでは、1つまた1つと品定めをしていきます。そしてお父さん世代の男性は酪農資材の展示ブースで酪農家に交ざりながら電動工具や雑貨を夢中で見て周ります。その姿はホームセンターのDIY用品売り場でいろんな道具を見ては楽しんでいるようにもみえます。
そして、そんな家族が広いEXPO会場を一回りしたあとは、共進会場であるコロシアムの観客席にゆったり座り、優雅に歩く牛たちを見ながら休憩するといった具合です。その様子はごく自然で、ゆったりと秋の休日を楽しむためにEXPO会場を訪れたという感じに思えます。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

酪農に関係する企業はとても裾野が広く、多岐にわたっています。そして、それぞれが自分たちの専門分野だけに特化した事業活動を展開しがちです。しかし、酪農を「乳牛が仲を取り持つ一つの産業」として見てみると、先ほどの例のように、子供から大人まで様々な人が興味を持つ、とても幅広い魅力のある産業であることがわかります。World Dairy EXPOは、多彩な酪農関連企業の参加を得ることにより、そのような産業としての酪農の魅力を上手く引き出しているのでしょう。
わが国においても、毎年さまざまな分野で酪農イベントが企画・開催されています。しかし、それぞれが得意分野の中だけでイベントを企画しているように思えます。ここはWorld Dairy EXPOのように、酪農全体の魅力がアピールできるイベントにする必要があるのではないかと考えます。
今回のWorld Dairy EXPO視察にて、一般市民がごく自然にEXPO会場に足を運んでいる姿を見ると、World Dairy EXPOという酪農のイベントが地域の年中行事として市民に広く浸透しており、そして酪農に対する理解も深いことを窺い知ることができました。これは1967年以来開催を続けているWorld Dairy EXPOが築き上げてきた歴史的功績であり、一朝一夕にできることではありません。
しかし、牛乳・乳製品の消費低迷、食にまつわる疑惑が続く昨今において、イベントが消費者と直接交流する機会、酪農の現状を理解してもらえる機会、そして酪農に興味を持ってもらえる絶好の機会であると捉えれば、World Dairy EXPOから学ぶことも多々あると思います。海外のイベント同様、一般市民も入場料を支払うだけの価値があると認識してくれ、さらには酪農に興味を抱いてくれるような魅力ある内容を築いていくことが、今後のわが国における酪農のイベントの課題ではないでしょうか。







